バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

08

 部屋に入ったサイアスは、2人に状況の説明をした。

「まずあの光の正体だが、カリュドーンの猪らしい」

「カリュドーンの猪……?
 そんな、そいつはアンゲロスにより厳重に拘束されているはずでは?」

 玉藻がそういうとサイアスが頷く。

「ああ。脱走したらしい」

「脱走……
 そんな、いったいどうやって……」

「テオスが手引きした。
 アンゲロスからの情報はこれ以上はない。
 で、こちらからの質問。
 先程の男の子は?」

「名前は亜金。
 普通の高校生になるはずだった……」

 玉藻が涙混じりにそういった。

「だったとは?」

「明日、枚方エレメント学園の入隊式だったんだ」

「そうだったのか。
 じゃ、僕の後輩だったのか……」

 サイアスがそういうと13が小さく頷く。

「うん」

「では、もうひとつ質問はいいかい?
 君の目的はなんだったんだい?」

 サイアスがそういうと13は表情を変えることなく聞き返す。

「目的?」

「ああ。
 だって君は――」

 サイアスはそこまで言葉を言いかけたとき13が言葉をすぐに返す。

「僕は亜金くんを護るために派遣されたんだ」

「そうなのか?」

「うん」

「派遣?派遣ってどういうことだ?」

「僕も軍属なんだ」

「え?」

「パンドラって国際ギルドに所属している傭兵みたいなものかな」

「そうなのか」

 玉藻はそれ以上聞かなかった。

「そうだ。
 家族がどうなったか知りたい」

「電話は使えないよ。
 家はどの辺りなんだい?」

 サイアスが、玉藻に尋ねる。

「詩空孤児院って孤児院なんだけど……」

「そうか」

 サイアスは言葉を失った。
 理由はすぐにわかった。

「モニターを写すよ」

 会議室のモニターに詩空孤児院だった場所の上空のモニターが写される。
 そこにあったのは、灰だった。
 炎が燃え尽きた……
 まさにそんな感じだった。

「カリュドーンの炎は、炎さえも燃え尽くす。
 酸素がなくなるまで……ね。
 言いにくいけど生存者はほぼいない。
 恐らく君たちだけだと思う」

 サイアスの言葉に玉藻は涙を流した。

 その感情は絶望。
 まさしくそうだった。
 それしか浮かばなかった。

「そんな、でもどうして私たちは助かったんだ?」

 玉藻の疑問も当たり前だった。

「それは亜金くんのおかげだと思う」

「亜金の?」

「亜金くんは、テオスの血が流れているみたいだね。
 その血が亜金くんを咎人へと覚醒させ君たちの不幸を食べた。
 としかいいようがない。
 ドールのシールド程度では、護れないと思う」

 サイアスがそこまでいったとき13は不思議な感情が産まれた。

「見てたの?」

「ああ、全部ね。
 亜金くんに関しては保護対象だったからね。
 君が出なければ僕たちが亜金くんを保護していたよ」

「そっか」

「ああ。ジルたちに関しては手が出しにくいのでね」

 ジル=ジルベルト。
 彼は傭兵ギルドのダークグラムのリーダーの息子。
 ギルド同士の衝突はギルド法により禁止されている。
 そのため、ギルドに所属しているサイアスは手が出せなかったのだろう。
 13は、そう思った。
 そのための自分なのだったのだろう。
 パンドラに所属しているものの。
 自分は無所属に近かった。
 だから、無所属に近い自分が派遣され亜金の保護を頼まれた。
 それだけなのだろう。

しおり