09
「役者は揃った」
男が嬉しそうに言った。
男は国際連合COKEの将校。
道 道長(みち みちなが)。
エレメント学園の校長も務めている。
つまり軍の隊員を育てる立場にある。
「この被害……大きくないですか?」
秘書が尋ねる。
「いいのだよ。
3年は遠征で出払っていた。
残っていたのも数少ない生徒。
それも1年ばかりだ。
即戦力になる3年の盾になった1年は誇っていいだろう」
道長が嬉しそうに笑う。
「そういうものですか?」
秘書は戸惑う。
「ああ。そういうものだ。
残った2年も1年もただの捨て駒。
我らの勝機は近づいた」
道長が豪快に笑った。
そんな世界があることを……
13は知る由もなかった。
―― 一方。
「聞こえますか?13」
マスターが何度も13に通信を送る。
しかし通信もチャントも届かない。
携帯の電波なんて論外だった。
「弱りましたね……」
マスターは戸惑う。
現状が現状。
テレビでは、枚方エレメント学園を中心に全てが灼熱により灰になったことばかりが告げられている。
周りの施設もほぼ灰になっていた。
ドールのシールドではどうにもならない。
それくらい凄まじい灼熱だった。
生存者の報告はまだない。
近くにいたスタンレイ艦が救護にいったものの連絡が来ない状態だ。
状況は悪くなる一方だ。
マスターは、最悪の状況を考えた。
13の損失も亜金の死亡も人類に取ってしまえば不利になる。
13の回復能力は高い、そして亜金の能力である不食は他の人の不幸を食べて自分の力に変えるというものだ。
本人すら気づいていない能力。
覚醒したのはつい最近のことだ。
テオスが、亜金を狙って攻撃した可能性は低いだろう。
だが、状況が状況なだけに悪い考えしか浮かばない。
するとマスターのチャントに女の人の声が入ってくる。
「マスター、聞こえますか?」
その声には聞き覚えがあった。
「レインさんですか?」
「はい、こちらはパンドラ艦所属のレインです。
今、亜金くんを保護したとの情報をキャッチしました」
「え?亜金さんを?」
マスターが驚く。
「はい。ですが記憶を失っているみたいで……」
「で、亜金さんはどこにいるのです?」
「アンゲロスです」
「アンゲロス?天使が保護したのですか?」
「はい」
アンゲロス。
それは、天使と呼ばれる存在の集まりだ。
テオスに近い存在だったが考えの違いにより分離した組織だ。
「テオスじゃなくてよかったです」
マスターの素直な意見だった。