バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

執事コンテストと亀裂⑤①




伊達に、結黄賊のことを教えた。 別に後悔はしていない。 だって、結人は伊達のことを信じているから。
クラスは一緒じゃなくても、見ていて何となく“いい奴”だということは結人でも分かっていた。
「じゃあ、伊達に俺たちのことを教えたところで・・・本当の本題へ入ろうか。 みんなが一番混乱している、藍梨のこと」

―――俺は、今の気持ちをありのままに伝えるよ。 
―――嘘も何もつかずに、何も包み隠さずに・・・な。

「俺は今、藍梨と別れているんだ」
「それはいつからだよ」
「先週の水曜から」
そう――――藍梨と別れて、一週間が経とうとしていた。 彼女と別れている時間は、とても長いように感じられるがとても短かかった。 もう一週間が経つのだ。

―――まだ藍梨のことを想っているっていうことは、今の俺は正直に生きていいんだよな。

「・・・どうして、別れたんだよ。 別にこれはユイと藍梨さんの問題だから、俺がユイに言える立場じゃないし口をあまり挟みたくはない。
 だけど、ユイは藍梨さんと再会するために立川へ来たんだろ? ・・・だったら、折角付き合えたんだしこれからも長く幸せでいてほしかった」
未来が静かな口調でそう口にする。 
―――・・・そうだよな。 
彼は、藍梨を一目見た時から『可愛い』とか『本気で好きになりそう』とか言っていた。

―――最初は俺を挑発するような意味で捉えていたけど、本当に藍梨のこと・・・本気で好きだったんだな。

「未来。 俺の話には、続きがあるんだ」
「続き?」
その言葉に結人は頷き、話を続ける。 藍梨と別れた理由は、言ってもまた自分がうじうじするだけだと思いここでは言わないようにした。 
そしてこれは――――ライバルである、伊達に向けたものでもある。 この場にいるみんなを自分の味方につけるために言った、というのは否定しない。 

それだけ結人は、卑怯で――――どうしようもないくらいに弱い、人間なのだから。

「俺はまだ、藍梨のことを諦めてなんかいないよ。 今未来が言った通り、ここで諦めたら立川まで来た意味がなくなるからな。
 ・・・ぶっちゃけ、藍梨から振られてすげぇショックだったけど、俺の気持ちは今でも変わらない。 
 だからレアタイの件が終わったら、藍梨と正面から向き合おうって決めていた。 それが今日、終わったんだ。 
 明日から俺は、本気で向き合っていこうと思っている。 ・・・伊達。 悪いけど、俺は藍梨のことをまだ諦めてはいない。 
 藍梨が伊達に好意を抱いていようとも、俺はもう一度藍梨にこの気持ちを伝える」
みんなは黙って、結人の話を聞いてくれていた。
「まぁ、そんでまた振られたらそん時はそん時で考えるよ。 藍梨が好きっていう気持ちは、きっとこれからも変わらないと思うし。
 この先ストーカーみたいに付き纏うのも・・・嫌だしな。 藍梨が伊達と付き合ってそれで幸せなら、俺はそれでもいいと思っている。
 でももう一度気持ちを伝えるまでは、まだ諦めないから。 ・・・俺は藍梨のこと、今でも想っているから」
みんなに今の気持ちを伝え終えた。 伊達が今から何を言おうとも、今なら全てを受け入れる自信がある。 だが――――伊達は何も言わずに、他の者が口を開いた。

「俺はユイのこと、応援しているから!」

それは――――優だった。

「俺も。 ユイと藍梨さんはお似合いだと思うし」
「また付き合ってよ」
「そうそう。 また藍梨さんと一緒に、集まって遊びたいし」
「飯も一緒に食いに行きたい!」
「振られてもいいから、とりあえずまた連れてきて」
「いや、それは流石に気まずいだろ」
「ユイが振られたら、俺がアタックしちゃおうかなー」
「未来、それは冗談でも許さねぇ」

みんなからの反応は、意外にも結人を応援する声だった。 結人のために言ってくれているのか、ただ藍梨とまた遊びに行きたいだけなのか、本当の理由は分からなかったが。
伊達からの意見も聞こうとしたが、彼のことを考えこの場で聞くのは止めた。 
彼は俯いていたためあまり表情は見えなかったが、結人の放った言葉にショックを受けて嫌な気持ちにでもなっているのだろう。 それも無理もない。
ここにいるみんなは結人の味方をしてくれているのに対し、伊達に気を遣う者は一人もいなかったのだから。 
だけど伊達が藍梨のことが好きだということを、この中で知らない者はたくさんいた。 だから当然と言えば当然なのだが。
解散した後、伊達を呼び出して改めて話し合おう。 彼を一人、放っておくわけにはいかない。 今のこの状況を落ち着かせ、結人はみんなに向かって口を開いた。

「明日からまた、藍梨に対して本気で向き合う。 だから、また藍梨に気持ちを伝えるまで・・・待っていてほしい」

そう言うと、みんなは嬉しそうに微笑みながら頷いてくれた。 そして結人たちは、このまま解散することになった。


しおり