第17話
––––ギリッ!
歯ぎしりの音が響く。
音もなくあらわれて、手下を一刀で撃ち倒したアバズレンを
その顔には怒りと焦りの色がありありと浮かんでいた。
林太郎は無言で
「くらえっ!」
人間のものとは思えない腕力で持ち上げた成行を、アバズレンに向かって投げつける。
大砲から放たれた弾丸と化し、風を裂いてアバズレンへと向かう。
迫る成行の巨体––––このままでは直撃する。
「……」
が、アバズレンは避ける素ぶりすら見せない。
両足を肩幅にかまえ、腰に刀を収めて手のあいた両腕を開く––––完全に抱きとめる姿勢であった。
––––トンッ!
すぐさまアバズレンはくるり、くるりと靴音鳴らせつつ後方へ回転して衝撃を殺した。
それはまるで、西洋の
さもあらん、この男––––アバズレンこと「本物」の
もとより素質があったところへ、陸軍諜報部にてダンスを「武器」にすべく鍛錬を重ねていたのだ。岩盤から切り出したような無骨な成行も、元二郎にかかれば
––––キュッ、キュッ!
男ふたりのダンスも終盤、靴が床を鳴らす響きと、
––––シュッ、シュッ!
空気の
––––ムギュッッ!
元二郎の足が床以外のもにのった。
「ふ、ふにぃ! 」
猫の鳴き声のような音が足下からあがる。
元二郎の軍靴のかかとが床に寝ているふさのほおをしっかり踏みつけていた。
「うわっ!」
驚いたアバズレンは体勢を崩す。
背中を大きく反らし、抱きかかえていた成行を後方に放り投げた。まるで力士の「うっちゃり」のように……
「……えっ⁉」
ふたたび肉砲弾となった成行が、入口の壁を必死に背中で押さえている
「あわわわわっ!!!」
つるつるに剃り上げられた頭頂部が、金之助の視野を急速に覆う。
––––ドゴーン!!!
爆音が金之助のすぐそばで鳴る。
身体をくっつけていた扉が激しく波打ち、弾かれそうなった。
「あ、開いたらマズイ!!!」
慌てて背を扉に押しつけつつ、金之助は音をたてた方を見る。
「……」
本日二回め、ほんの
アバズレンの懐からすっぽ抜けた露伴は、扉やや右上、金之助のそば近くへ豪快にぶちあたったのだ。