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執事コンテストと亀裂㊹




―――何だよ、これ・・・!

伊達は――――藍梨と公園に、来ただけだった。 ただ、それだけだったのに。 
―――何なんだよ・・・これ。
伊達は今、いつも人がいない公園に今日は珍しく人がいるということで、驚いているわけではない。
“どうしてこんなに人気のない公園で、喧嘩なんてものが繰り広げられているのか”という疑問しかなかった。 
これは――――伊達にとって、今まで見たこともない光景。 そして、人数だった。 しかも――――その中には、伊達の知っている者もたくさんいる。
そこで、彼らの共通点に気付いた。

―――黄色・・・?

そう――――ここにいる彼らは、黄色のバンダナを身体のあちこちに巻いており、黄色のバッジを胸元に付けていたのだ。 
そんなことを考えていると、いつの間にか伊達の目の前には顔の知らない男が現れる。
「は・・・。 誰だよ、お前・・・」
こういう時は、どうしたらいいのだろうか。 自分には今、一体何ができるのだろうか。 
―――不良に絡まれた時、どうしたらいいのか聞いておけばよかった・・・!
―――あ、そうだ藍梨! 
―――早く藍梨をこの場から、逃がしてやらないと!
「藍梨!」
だが――――藍梨の方へ振り向きそう口にした時には、既に彼女は不良に捕まっていた。
―――くそッ! 
―――一体何なんだよコイツら!
―――ここは一発相手に食らわせて、藍梨を助けに行った方がいいよな。 
―――もう時間がないんだ! 
―――よし、落ち着け、俺・・・。 
―――俺なら・・・できる。
覚悟を決め、拳に力を入れて相手に殴りかかろうとした――――その瞬間。

「ソイツから離れろよ!」

その声と共に、目の前にいた男は2メートル程先まで飛んでいった。 いや――――飛んでいったというよりも、誰かが男を蹴り飛ばした。
―――誰・・・?
伊達はすぐにその声の主を見る。 

―――・・・八代。

「大丈夫か? 伊達。 相手はまだ意識があるから、気を付けろよ」
そう言いながら、夜月は自分の背中で伊達のことを隠すよう前に立った。
―――・・・こんなところで、何をしてんだよ、八代。 
―――あぁ、もう意味が分かんねぇ・・・!
―――どうして八代が、コイツらなんかと喧嘩してんだよ!
そこでふと、藍梨のことを見る。
―――・・・どうして、藍梨は苦しそうな表情を一切しないんだよ。
―――藍梨は何か知ってんのか? 
―――知ってんだよな? 
―――つか、知ってんだろ!?
「なぁ、八代・・・」
ゆっくりと口を開き、夜月の名を呼んだ。
「あ? 何だよ」
彼は振り向かずに、耳だけを伊達の方へ向け意識を集中させる。 もうこの状況には我慢できなかった。 

―――八代に聞いて、全て解決させるんだ。

「・・・どうして、藍梨は何も感じないんだよ」
「・・・は?」
そう言うと、夜月は伊達の方へ顔だけを向けて聞き返す。
「どうして、藍梨はお前らのことを見て何も言わねぇんだよ! 普通は怖がったり怯えたりするだろ!?」
「・・・」
強めの口調で夜月に向かってそう言葉を放つが、彼は静かな口調でこう呟いた。 だが――――次に彼が口にした言葉は、伊達にとって聞きたくもない最悪な発言だった。

「・・・は、何を言ってんだよ。 藍梨さんはユイと付き合ってんだから、こういうことは知っていて当然だろ」

「・・・は?」

―――今、何て言った? 
―――藍梨と色折は付き合っている? 
―――何を言ってんだよ・・・八代。 
―――違うだろ? 
―――藍梨は色折とは付き合っていないと言っていたんだ。 
―――藍梨からその言葉を聞いてからのこの短期間で、二人は付き合ったとでも言うのか?

伊達がそんなことを考えている間、夜月は再び目の前で不良と喧嘩し合っていた。

―――いや、そんなはずはない。 
―――土曜日はメールや電話をちょくちょくしていたし、日曜日だって藍梨とずっと一緒にいた。
―――昨日は色折が大変そうで藍梨と一緒に話しているところなんて、俺が見ている限りそんな場面はなかった。
―――だから、何を言ってんだよ・・・八代。 
―――藍梨と色折は、付き合っているわけがないだろ。
―――それともあれか? 
―――八代は・・・俺を騙そうとしてんのかよ。

伊達は俯き、小さな声で言葉を発する。
「八代・・・」
「あぁ? 何だよ!」
夜月は今もなお相手と喧嘩している。 だが伊達は、そんなことには意に介さず言葉を続けた。 それも、何も感情がこもっていない――――冷たい口調で。

「藍梨は、今誰とも付き合っていないって・・・言っていたぜ」

「・・・は?」
夜月はその言葉だけを言い、相手に思い切りパンチを食らわせた。 そして相手が倒れて動けなくなったのを確認し、伊達の方へ振り返ってこう口にする。

「・・・それ、どういう意味だよ」

伊達と同様、夜月も――――何も感情がこもっていない、冷たい口調で。


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