第12話
「……
憧れの人に駆け寄ろと
––––ドン、ドン、ドン!
扉がひときわ激しく打ち鳴らされ、彼は慌て再び背中を押しつけた。
その場から離れられない金之助の代わりに、鴎外––––
金之助のもとへと向かう……わけではなく、
––––キュイーン!
金属と金属がぶつかり、擦れ合う音が響く。
「……くっ!」
手にした短刀「
「……え゛?」
と、
「わわわわわっ!」
矢よりもまだ早くおのれの顔面に迫ってくる白刃を、升は神がかり的な反射神経を発揮して、すんでのところでのけぞってかわす––––と、そのまま後ろへ倒れこむ。
––––ゴギャ!
鈍い音が鳴る。升の身体はいまだ床に倒れたままの将校の上に仰向けに落ちた。
「いたたたたたっ!」
頭と背中をさすりながら升は起き上がり、
「な、な、何すんだよ、いきなり!」
吠える。
しかし、林太郎はそれを聞き流す。無言で刀を腰だめにして
「……の、のぼさん」
成行の声が震えている。普段からぎょろりとしていて、いまにもこぼれ落ちそうな両目が、さらに大きく見開らかれていた––––驚愕の表情、である。
「……へ?」
と、答える升に、
「……の、のぼさん……」
後ろから金之助のかぼそい声。振り向けば、こちらも顔を青くしている。金之助はちょん、ちょん、と指で足元を見ろ、としめす。
「……ったく、なんだよ……?」
視線を落とした升は、
「うっ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
……絶叫した。
さもあらん、彼の靴先には「将校の頭」が転がっていた。
––––すなわち、首から上が胴体から離れていたのだ。
さきほどの鈍い音とは、升が倒れ込んだ時、寝ていた男の首を「へし折り」、「ひきちぎった音」であった。
「う、うっそぉぉぉぉぉぉぉ!」
あり得ない現象だが、事実そうなっている状況に絶叫して飛び上がった升は、着地するなり成行を見た。
「……」
目を
振り返り金之助へ視線を向けるも、彼は両の手のひらで顔を包んでいた。
升はもう一度、足元を見る。
やっぱり将校の首と胴は離れていた。
––––正岡升、もういっばしの人殺しであった。
「……あわわわわ」
顔面蒼白––––紫色へと急激に色を変えた唇をわななかせ、膝が溶け出して力が入らなくなった升は、ヘナヘナとその場に座り込む。
「……あぁ、おれもついに人を手にかけてしまった」
しくしくと泣きだす。
その升の背中越しに、
「いつまで寝ているのだ、
林太郎の