執事コンテストと亀裂㊵
コウを呼び出し、数分話をして彼とは別れた。 倉庫の鍵を閉め外へ出ると、何人かの仲間が公園に残っている。 その中の一人、真宮が結人に向かって口を開いた。
「ユイー。 一緒に帰んねぇ?」
「あー、悪い。 ちょっと俺はここに残りたいから、帰ってていいよ。 待たせたのに悪いな」
「ん、そっか。 いいよ、また明日な」
断りを入れると、真宮は他のみんなに声をかけ一緒に帰っていった。
そして一人になったことを確認し、結人は公園内を見て回る。
―――この公園は、広い割に遊具が少ないな。
ブランコやジャングルジム、鉄棒などの定番なものはちゃんと揃っているのだが、空間がとても多い。 その理由は、真ん中には何も遊具が置かれていないからだ。
“特に危ないものはないな”と確認しながら、公園の周りを大きくぐるりと回る。
―――明日、喧嘩をする時に使う丈夫な棒や鉄パイプとか、そこらへんに落ちていたらいいんだけどー・・・。
―――まぁ、あるわけないか。
公園を一周回り終えると、隣にある倉庫にふと目が付いた。
―――そういや、裏口があるんだったよな。
そう思い、今度は倉庫の周りを一周回る。 かなり大きい建物のため、距離は結構あった。
―――あ、あれか?
倉庫の裏にある一つのドアを発見した。 北野から預かった鍵は二つある。 正面の扉の鍵とは違うもう一つの小さな方を手に取り、ドアノブの鍵穴に差し込んだ。
―ガチャ。
そして、ゆっくりとドアを開ける。 中は当然、結人たちがいつもいる倉庫の様子と変わらない。
―――裏口があったら色々と便利だよな。
―――不良らが俺たちを正面から襲ってきた時とか、逃げられるしさ。
―――確認しておいてよかった。
場所を把握すると、ドアを閉め鍵をかけ直す。
そしてまた公園へ向かって歩き出した。 だがふと下へ視線を移すと、ある違和感に気付く。
―――ん・・・?
―――何だろう。
結人は地面に付いている足跡を見つけた。 倉庫に近付く者といったら結黄賊のメンバー、または藍梨しか考えられない。 それとも子供が興味本位で近付いたのだろうか。
―――こんな倉庫の端に行くなんて・・・一体誰が。
不審に思い、足跡のある周辺を見回してみる。 するとあるモノに気が付いた。
―――落書き・・・?
倉庫の角の下付近に、何か文字が小さく書かれている。 結人は落書きされているところまで足を運び、その場に座り込んで内容を見た。
―――あ・・・藍梨・・・?
この瞬間、ふと藍梨が昨日この倉庫の角付近にいたことを思い出した。 だがここで期待しては駄目だと思い、小さく首を横に振る。
―――・・・いや、まさかな。
学校のバッグから筆記用具を取り出し、ペンを手に取った。 そして、その落書きの斜め下に文字を書いていく。
心の中では“これを書いたのは藍梨だったらいいな”と思っていた。
藍梨ではなかったら――――この返事が、馬鹿みたいだから。
書き終えると筆記用具をバッグの中へ戻し、結人はこの場から立ち去った。 そして、倉庫の角に書かれていた落書きは――――こう書いてあった。
“貴方が一緒にいたいのは誰ですか?”
翌日 火曜日 放課後 沙楽学園
「よーし、今日は頑張るぞ! 絶対に勝つ!」
「勝つのは当たり前だろ。 俺たちに“負け”なんて言葉は、存在しねぇんだから」
次の日となって、今日は火曜日。 そう――――赤眼虎との決闘の日だ。 今日で全てを終わらせる。 結黄賊の気持ちは、みんな一緒だった。
授業が終わり、結人が昇降口へ行くとみんなは既に集まっていた。
「おうユイ」
「今日は頑張ろうな」
御子紫と真宮の発言に、結人は力強く頷いてみせる。
「16時、公園に集合だ。 ちゃんと私服に着替えてこいよ。 バンダナとバッジも、忘れずにな」
それからみんなは一度、解散した。
結人も一度家へ戻り、私服に着替える。 そして携帯を制服のポケットから取り出し確認すると、柚乃からメールが届いていた。
内容は“頑張ってもいいけど、無理はしないでね”というものだった。 結人は軽く返信をし、黄色いバンダナとバッジを手に取る。
―――これを使うのは、立川へ来てニ回目だな。
―――今回も、よろしく頼むぜ。
今までのたくさんの思いが詰まったバンダナとバッジを見据え、強く握り締めた。 この二つは、結黄賊を唯一象徴してくれるもの。
自分たちが、目に見えて繋がっていると思えるもの。
一人ではない。 みんなが――――付いている。 そして結人は覚悟を決め、家を出た。 家から公園までの道のりを、一歩一歩踏み締めて確実に前へと進んでいく。
この時間までも、大切に感じながら。 そしてこの時間の重さを――――全身に、沁み込ませながら。
結人が公園へ着く頃には、またもやみんなは既に集まっていた。 といっても、みんなは公園内にいるのではなく少し離れたところにいる。
「あ、ユイ!」
未来が結人の存在にいち早く気付き、片手を上げ名を小さな声で呼ぶ。 結人はみんなのところまで走っていき、公園内を覗いた。
―――・・・レアタイ。
園内を覗くと、既に赤眼虎は来ていた。 人数は結人たちの倍くらいといったところか。
他にも言うならば、赤眼虎の全員は鉄の棒や鉄パイプ、金属バッドなどを持っている。
―――まぁ・・・このくらいは、ハンデがあってもいいだろ。
「・・・ユイ」
「? ・・・おい、何泣きそうな顔をしてんだよ。 優はその顔が似合うから、困るよな」
今から起こる抗争に怖くて震えている優に対し、結人は彼の緊張を少しでも解すよう笑いながら軽い口調でそう言った。
「どうすんだよ、これから」
その言葉を聞き、結人は携帯を取り出し時間を確認する。 時刻は15時57分。 結人は黄色いバンダナを首に巻き、バッジを付けながらみんなを小さく集めて強めに言葉を放った。
「よし。 いいかお前ら。 相手とは全力で戦え。 手加減なんてものはいらねぇから、いつもよりかは派手にいけ」
みんながその言葉に頷いたことを確認し、続けて言葉を放つ。
「でも、喧嘩は俺たちのいつも通りのやり方でいく。 ・・・いいな?」
結人はそう言って、コウのことを見た。 コウも結人の目を見て力強く頷いてくれる。 彼のその合図を確認し、もう一度みんなの顔を見渡して覚悟を決めた。
「絶対に負けるなよ。 ピンチになったらすぐに助けを呼べ!」
「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」
そして――――結人たちは、一斉に公園へと足を踏み入れた。