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執事コンテストと亀裂㊴




放課後


今日の授業は全て終わり、放課後となった。 
梨咲とコンテストの練習を少しやり『家まで送る』と言ったが『部活の友達と帰るからここで待っているよ』と言われたので、結人は一人公園へ向かう。
みんなに赤眼虎のことをそのまま伝えればいい。 『明日、決着をつける』と。 言うのはそれだけでいいのだ。 他には何も――――言わなくていい。 

公園の近くまで来て足を止める。 中の様子を見ると、みんなはちゃんと集まってくれていた。 心の中で真宮に感謝をし、覚悟を決めて公園の中へと足を踏み入れる。
すると彼らは、すぐに結人の存在に気付き声を上げた。
「お、待っていたぞー。 ユイ!」
「やっと将軍のお出ましかー」
「どうしてそんなに暗いんだよ。 もうちょっと気楽にいこうぜ?」
未来、椎野、真宮が続けてそう口にした。 最後の真宮の言葉に少しだけ安心をし、微笑みながら小さく頷く。 そして『倉庫の中へ入ろうか』と声をかけ、大きな扉を開いた。

「ここに来たっていうことは・・・。 何か、大事な話?」

優がさり気なくその言葉を口にする。 だがその発言には誰も返さず、みんなは別のことで少し会話を交わしながら、結人の方を向いてその場に座った。 
結人はソファーの上に座り、みんなと向き合う形をとる。 
―――みんなは俺の命令を絶対に聞いてくれると分かっていても・・・いざ話すとなると、緊張するな。
「・・・何だよ? 話って」
なかなか口を開かない結人に、御子紫は話を切り出した。 

―――・・・よし。 
―――俺はみんなのことを、信じているよ。

そして意を決し、強めの口調で彼らに向かって言葉を放つ。
「明日、レアタイと決闘することになった」
「え?」
「レアタイ?」
「どういうこと?」
「もう、アイツらとは終わったんじゃなかったのか?」
発したその一言で混乱している彼らに、説明を付け足していく。
「レアタイは、今立川にいる」
「え、どうして?」
「どうして立川にいんだよ」
「どういうことだよユイ!」
「は? もう意味わかんねぇ」
「みんないったん落ち着けって。 ユイが説明できねぇだろ」
どうやって話を続けていこうかと困っていると、夜月がフォローしてくれた。
―――レアタイのことについて知ってんのは、夜月だけだもんな。 
そんな彼の優しさを感じながら、結人の心は落ち着きを取り戻していった。 

そしてみんながその一言で静まるのを確認し、言葉を続けていく。
「・・・柚乃が、今立川にいるっていうことは知っているよな?」
立川で初めて柚乃と再会した日――――その時に出会った未来と悠斗、椎野のことを見て言った。 真宮も柚乃のことは知っているはずだ。 そこで結人は、深く頭を下げる。
「柚乃に関しては、言えなくて悪い! 柚乃も今、立川にいるんだ」
柚乃のことを知らない残りのメンバーに向かって、そう言葉を発した。 そして続けて、結人は言葉を紡ぎ出す。
「柚乃に、立川からストーカーが付いてきていてさ。 そのストーカーがレアタイだったんだよ。 
 そのストーカーの目的は、結黄賊のリーダーである俺を捜すためだった。 俺を見つけるために・・・柚乃を、ストーカーしていたんだ」
「・・・そのストーカーのレアタイとは、いつ会ったんだよ?」
椎野の質問に、結人は顔を上げ淡々と答える。
「昨日だよ」
「昨日!?」
「何だよそれ、急な・・・」
「あぁ、急で悪いと思っている! でも・・・俺はレアタイがこれ以上立川にいて、好き勝手してもらいたくない。 だから早めに決着をつけたいんだ。 藍梨のためにも。 
 そして・・・俺たちの、平穏な日常を取り戻すためにも」
そう言って結人は立ち上がり、仲間の目の前に立った。 彼らはみんな注目している。 そんな中、仲間に向かってもう一度頭を下げた。
「今まで、レアタイのことを隠していて悪かった。 ・・・でも、明日。 みんなには協力してほしいんだ」

「「「・・・」」」

その一言に、皆一様に黙り込む。 結人はこの時、何も考えないようにしていた。
“やっぱりみんなは黙っていたことに対して怒っているんだ”とか――――“最後までみんなに頼ってくれなかった俺なんかに、付いていくのは嫌だろうか”とか。
そのようなことを考えると、キリがないと思ったから。 だから今、何も考えずにいる。 ただ――――みんなの返事を待つしかなかった。
そんな中、今まで言葉を一度も発さなかった――――未来が、口を開く。 彼なら結人の発言に毎回突っ込みを入れてくると思っていたが、何故か今までは口を開いてこなかった。
そんな未来が――――静かな口調で、ある言葉を吐き出す。

「・・・レアタイのことは、知っていたよ」

「・・・え?」
思ってもみなかったその言葉に驚き、結人は思わず顔を上げ未来のことを見据えた。 だが彼のその顔は、嬉しそうな顔でもなく悲しそうな顔でもない。
ただ―――何も深いことは考えていないといった、普通の表情だった。
「え、どういうことだよ。 俺は知らなかったぜ?」
「俺も知らなかった」
御子紫と優が、未来の発言に対してそう言葉を返す。 彼らが困惑している中、結人は何かを言わなければならないと思うがなかなかいい言葉が見つからない。
「どうして、未来は知っていたんだよ」
どういう発言をしたらいいのか分からず困っていると、夜月が代弁してくれた。 すると未来は悠斗の方へ一瞥しながら、返事をしていく。
「いや、俺だけじゃなくて悠斗もこのことは知っている」
「二人は本当に仲いいな」
「うん。 本当に羨ましい」
「いや、突っ込むのはそこじゃないだろ」
椎野と北野の陽気な発言に対し、御子紫は冷静な突っ込みを入れる。
「・・・どういうことだよ、未来」
そんな彼らの会話に静かに割って入るよう、結人はやっと口を開き未来に尋ねた。 すると彼は――――小さく、ニヤリと笑う。

「噂好きな俺を・・・。 いや、情報好きな俺を・・・ナメんなよ?」

その発言を聞き、またもやみんなはそれぞれの思いを口にしていった。 
「え、じゃあレアタイのことはとっくに知っていたのかよ? 今立川にいることとか、結黄賊を捜していたこととか」
「どうして言ってくれなかったんだ」
「いや、その前にどうしてユイに相談しなかったんだよ」
御子紫と優の発言に、続けてコウも口を開く。 その問いに対し、未来は少し困った表情をしながら答えていった。
「いやー・・・。 レアタイが立川にいるっていうことは知っていたけど、その理由が“結黄賊を捜している”っていうところまでは調べられなかったんだ」
「未来ならそのくらいの情報集められるだろ」
「いや、調べていたぜ? うん、調べていた。 だけど俺と悠斗で一緒に情報集めしようと思ったら、真宮に止められてさ。 『今は下手に動くな』って」
「どうして真宮は未来たちを止めたりしたんだ?」
未来たちの会話を聞き、結人は先日真宮に命令したことを思い出す。

―――真宮は俺の言った通り、ちゃんとみんなのことを見ていてくれていたんだな。 

そして御子紫が真宮に向かって強めにそう口にしたのに対し、代わりに結人が口を開いた。
「真宮には俺が言ったんだ。 俺もレアタイが立川にいるっていうことは、早いうちから知っていたけど・・・。
 柚乃のストーカーがレアタイだったっていうのと、立川にいた理由が俺を捜すためだったっていうのは知らなかった。 
 だからレアタイについての情報を得るまで、真宮にはみんなを見張っていてもらったんだ。 今事件を起こしてもらっても、困るからさ」
「「「・・・」」」
そう発した言葉に、再びみんなは黙り込んだ。 一気に説明をして、みんなは戸惑っているのだろうか。 
―――それとも“俺たちをそんなにガキ扱いすんな”とでも・・・思ってんのかな。
言うことが遅くなったりみんなに頼るのが遅くなって、迷惑をかけた罪悪感だけが心に残る。 

そしてしばらく沈黙を守った後、最初の一人――――悠斗が、静かに口を開いた。
「・・・俺はユイに付いていくよ。 そう、決めたから」
その一言に、すかさず未来も食い付く。
「え、悠斗がそう言うなら俺もユイに付いていく!」
「何だよ、悠斗が言わなかったら付いていかないみたいな発言」
未来のことを横目で見ながら、夜月は呆れ口調で突っ込みを入れた。
「あぁ、じゃあさっきの言葉は撤回! 俺もユイに付いていく! 本当はもっと早めに言ってほしかったけど、決闘の前にはにちゃんと俺たちに言ってくれたし」
「俺も。 将軍に付いていく」
「どうせ、俺たちをあまり危険なことには巻き込みたくなかったんでしょ? ・・・どこまで優しいの、ユイは」
「最初は自分だけで抱え込んで、最終的には俺たちを頼ってくれる。 何かユイらしいな」
「それ、コウが言えることかよ」
未来に続いて椎野、優、コウも言葉を発した。 だが最後の発言に、結人は自然と突っ込みを入れる。 『それはコウもそうだろ』と。
「俺も明日、一緒に戦うよ」
「ん。 俺もユイのためなら、何でもやる」
北野と御子紫もそう言ってくれた。 そして――――最後に。

「俺も明日、みんなと一緒に戦うよ。 大切な仲間、ユイの頼みだもんな。 そして・・・夜月は、このことを全て知っていたのか?」

真宮が夜月を見ながら、苦笑してそう言葉を発した。
「え、そうなの?」
「何で夜月だけが知っていたんだよ!」
「それはまぁ・・・。 俺とユイの、二人だけの秘密ってことで」
「何だよそれー」
「何か気持ちわりぃー」
「気持ち悪いって何だよ」
「正直に言っただけだしぃー」
夜月が笑いながら言うその言葉に対し、未来は視線をそらしながら適当に返していく。 
―――この二人はよく言い合っているけど、実際は仲がいいんだよな。

「それで? 明日の詳細、聞かせてくれよ」
真宮が本題に戻してくれた。 そう――――問題は明日だ。 その言葉に、結人は力強く返していく。
「明日の16時。 場所は正彩公園。 喧嘩は俺たちのいつも通りのやり方でいい。 そして・・・黄色いバンダナとバッジを、忘れずにな」
そう言うと、みんなは頷いてくれた。 
「あ、でも明日のコンテストの練習は?」
突然思い出したのか、真宮のその質問に結人は答える。
「梨咲には『明日練習を休む』って言っておいた。 だから大丈夫だ」

―――みんな、ありがとな。 
―――俺は少し考え過ぎだったのかもしれない。

それにもしかしたら、悠斗が先に発言をしてくれなかったらみんなは乗ってこなかったのかもしれない。 だが、そんなことはどうでもいいのだ。 
最終的には――――みんなが結人のことを信じて『付いていく』と言ってくれたから。 結人はそんなみんなのことが大好きだった。 彼らには今でも感謝している。 
こんな自分に――――ずっと付いてきてくれて。 

この後、結人たちはこのまま解散した。 そして――――最後に、ある一人の少年を呼び止める。

「コウ。 ちょっと、いいか?」


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