執事コンテストと亀裂㊳
結人は藍梨がまた泣き止むまで傍にいてあげた。 そして泣き止んだ後、彼女を家まで送ってあげる。
―――最近、藍梨泣き過ぎだよな。
どうして泣いているのか、本当の理由は分からなかった。 だが無理には聞かない。
自分だって、藍梨に『今悩んでいることは何?』と聞かれたら、きっと答えられないと思うから。
それに今日、どうして彼女があの公園にいたのかも聞くことはできなかった。
結人は火曜日に赤眼虎との決闘があるため、危険な物はないかもう一度調べようとあの公園へ足を運んだのだ。 そしたら、そこに藍梨がいた。
その前に電話をかけたのは、本当に藍梨の声が聞きたかったから。 これ以上、特別な理由はない。 とりあえず、今の自分の気持ちを落ち着かせたかっただけだった。
だが結局彼女と遅くまで話をしていたため、公園内を調べることはできずにいた。
―――明日ここでみんなに話す時、ついでに公園の確認でもするか。
本当は藍梨の傍にずっと付いていてあげたいが、今はそうはいかない。 赤眼虎との決闘が終わるまでは、藍梨とはあまり関わりたくなかった。
といっても、つい先程関わってしまったが。 今の藍梨には伊達がいるから大丈夫だろう。 彼は見ている限り人がいい。
藍梨に対して危険なことはしないだろうし、わざと危ないところにも自ら突っ込まないだろう。
藍梨のことを考えるのはこれで終わりにして、今度は赤眼虎のことを考え始める。 一番に考えるのは、やはり“人を傷付ける喧嘩”をどうしようかということ。
人を傷付けた時点で、結人たちは結黄賊ではなくなる。 だからやはり夜月に言われたよう、いつも通りのやり方で喧嘩をすればそれでいいのだろうか。
それと、明日はみんなに何と言って説明をしよう。 今まで赤眼虎のことをみんなには隠していたため、今となってとても言いにくい。
―――・・・でも、けじめはつけないとな。
ハッキリと物を言わないといけない。 柚乃にも、自分から気持ちを伝えなくてはならないのだ。 明日は練習。 そう考えればいい。 みんなはきっと、分かってくれるはずだから。
結人は最後の最後まで自分にけじめをつけ、そのまま今日は眠りに落ちた。
翌日 朝 沙楽学園1年5組
「真宮」
今日から月曜日。 朝結人は自分のクラスへ行き、真宮を呼び止めた。
「おう。 どした?」
「今日の放課後、みんなをいつもの公園に集めてほしいんだ。 時間は17時。 真宮に任せてもいいか?」
「あぁ、もちろん。 みんなに伝えておく」
彼は命令を素直に聞いてくれ、結人はその足で1組へと向かった。
「梨咲ー?」
1組の教室を覗きながら、彼女の名を呼ぶ。 教室にいた御子紫が梨咲を呼ぶ声に反応し目が合ったため、結人たちは顔だけで挨拶を交わした。
「何? 結人」
相変わらず梨咲は可愛らしい笑顔を見せてくる。
――一昨日の夜、あんなことがあったのに・・・もう大丈夫なのかな。
立ち直りが早いのか、それとも自分のために無理してくれているのかは、結人には分からなかった。
「あのさ、放課後にするコンテストの練習・・・今日は早めに切り上げてもいいか?」
「うん、いいよ? 今日は何かあるの?」
「まぁ、ちょっとな。 あとさ・・・明日は、練習を休みにさせてほしいんだ。 自分勝手なことを言って悪い」
「いいよ、そんなに謝らないで。 結人は悪くないでしょ? 外せない用事があるなら、仕方ないよ」
そう言って、梨咲はまた笑顔になった。 結人は何度も彼女のこの笑顔に助けられているのだ。
「ありがとな。 梨咲」