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「トール。
ああ。天才魔術師のトールですか」
白銀が嬉しそうに笑う。
「人形遣いのトールだよ」
トールがそういうと人差し指を白銀の方に向けた。
そして、濃縮した糸を放出させた。
「蜘蛛の糸に勝る糸など――」
白銀はそこまで言いかけるが言葉をやめてその攻撃を炎の魔法で燃やした。
「普通の糸ではないですね」
「……うん」
「興味ありますね。
貴方に非常に興味がある」
白銀がそういって嬉しそうに笑う。
「僕は貴方に興味はない」
「トール、貴方もテオスに来ませんか?」
白銀の言葉にトールは、表情を変えずに尋ねた。
「君は誰?」
「はい?まさか世界の天才白銀の名を知らないのですか?」
「名前は知っている。
でも、君は白銀さんじゃない」
「なにを言って……」
白銀の頭が混乱する。
「そうだね。
だって白銀は僕だもの」
そういって虎マスクを被った白銀が現れる。
「貴様は……」
ボクも一緒だった。
「『貴様は』の続きは?」
「クローンですか?」
白銀の質問に虎マスクをつけた白銀が答える。
「違うよ。
僕が白銀だよ」
「なにを言っている?」
「えっと頭が混乱してきたんだけど?」
イリスが困り果てている。
「つまり答えはこうさ……」
虎マスクをつけた白銀が人差し指を立てて言った。
「この偽物は、地下を制覇したら世界を滅ぼすと言われている僕の代わりに穴掘りをしている紛い物さ……」
「紛い物?」
白銀が笑う。
「テオスってかフィサフィーが、僕の代わりに僕の断りもなく勝手に作ったただの人形さ」
「紛い物は貴方でしょう?」
白銀がそういって虎のマスクをつけた白銀を睨む。
「どっちでもいいさ。
偽物には退場してもらおう」
虎のマスクをつけた男がマスクを外す。
するとそこには血のような赤い眼をした白銀の顔が現れた。
「な……僕は……」
赤い眼の白銀は刀を召喚して言った。
「悪いやつは」
「やめてくれ」
白銀が命乞いをする。
「目・即・殺」
「殺さないで――」
赤い眼の白銀は、音もなく白銀の身体を切り裂いた。