執事コンテストと亀裂㊱
同時刻
その頃、伊達と藍梨は正彩公園へ来ていた。 まずは近くのコンビニへ行き、飲み物だけを買って公園のベンチに座る。 そして伊達は、少し前に起きた出来事を振り返っていた。
―――さっきは気にしない方がいいとは思ったけど、やっぱり気になるな。
―――・・・色折たちのこと。
―――アイツら、一体何だったんだろう。
―――それに・・・藍梨は喧嘩をする色折たちのことを見て、どう思ったんだろう。
―――何も思っていないっていうことは・・・流石に有り得ないよな。
考えているだけじゃ時間の無駄になるだけだと思い、意を決して藍梨に声をかけた。
「なぁ藍梨。 喧嘩をしている色折たちのことを見て・・・どう思った?」
「・・・」
彼女にあまり負担かけないよう、優しく尋ねかける。 だが、やはり藍梨は黙ったままだった。
―――そりゃ・・・そうか。
―――喧嘩を見て何も思わない人は、いないよな。
―――藍梨は喧嘩をしている姿を見て、その光景があまりにも刺激的過ぎて何も言えなくなっているんだ。
―――うん、きっとそうだ。
―――そうに違いない。
しかし――――自分の中でそう解決をし終えるのと同時に、藍梨はそっと口を開いた。
「・・・結人は、強いよ」
「え?」
―――今・・・“結人”って言った?
突っ込むところはそこではないと思いつつも、伊達は次第に混乱の中へと陥っていく。 そして藍梨は、続けるように言葉を発した。
「もちろん、みんなも」
「藍梨は、色折たちのことを何か知っているのか?」
一番聞きたかったことを、一度彼女に聞いてみる。 今の藍梨なら、答えてくれそうだったから。 そして彼女は一瞬だけ俯き、覚悟したかのようにこう答えた。
「みんな、喧嘩が強い。 ただそれだけだよ」
「・・・」
そう言って悲しそうな表情をして笑う。
―――・・・その顔、俺はどうやって捉えたらいいんだよ。
伊達はどんな顔をして藍梨を見たらいいのか分からなくなり、彼女から視線をそらした。
―――やっぱり、色折に直接聞いた方がいいのかな。
といっても、今結人とはあまり関わりたくないのが現状だ。 結人が藍梨を狙っているということは、伊達でも分かっていた。 だったら夜月に聞くべきだろうか。
―――・・・いや、さっき一緒にいたあの女性と何かしら関わっていたら、面倒なことになるか・・・。
―――じゃあ聞くとしたら、関口か中村、もしくは真宮・・・か・・・?
そう色々と考えていると、藍梨は携帯を取り出し画面を眺め始めた。 伊達もつられて携帯を取り出し、時刻を確認する。 時刻18時半になりかけていた。
あと少しで夕日が沈む。
―――もう今日は帰るかな。
―――これ以上遅くなると、藍梨のことが心配だし。
「藍梨。 そろそろ帰ろうか」
そう声をかけるが――――彼女は、首を横に振った。
「まだ帰らないの?」
「うん、もうちょっとここにいる。 直くんは帰ってもいいよ?」
「いや、流石に藍梨を一人にしてはおけないよ」
伊達はベンチに座っている藍梨の目の前に立った。 それで“早く帰りたい”という仕草を見せるが、彼女は一向に動こうとしない。
「大丈夫だよ。 真っ暗になる前には、ちゃんと帰るから」
藍梨は、一人になって色々と考えたいことでもあるのだろうか。 そう思い、今は彼女の言う通りにすることにした。
伊達も一人になって考えたいことがあったから“藍梨もきっと自分と同じ気持ちなんだろう”と思って。
「分かった。 ちゃんと暗くなる前には帰れよ?」
「うん」
伊達は藍梨の返事を聞き、別れの挨拶をしてこの公園から一人立ち去った。