バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第8話

––––ピギャャャャャャャ!

甲高い絶叫、サラサラと音を立てて成行(しげゆき)の身体を滑る砂……
突然いましめから解放され、力あまって四つんばいの成行の身体は一度びくんと跳ねた。
「大丈夫ですか?」
彼をかばうように立つふさ。
その手には「何か」が握られていた。
白く長い紙に梵字(ぼんじ)が書かれたもの––––お(ふだ)を指と指の間にはさんでいた。
児啼(こぎゃなき)です!」
「……え?」
「……子供たちみんな(あやかし)になってしまいました」
その声は怒りに震えていた。

––––アハハハハハ!

屈託(くったく)のない笑い声を立てながら飛びかかってきた赤子の、その額めがけ腕を伸ばし、手にしたお札を突きつける。

––––ハンギャァァァァァ!

鼓膜を震わす奇声を発し、幼児はその形を崩した。石と化し、砂と変わり、床にぶちまけ消え入る。
「お、おぉ!」
驚きの表情をその(いわお)のような顔に貼りつけながら立ち上がる成行に、
「ここはわたしにまかせて下さい!」
ふさは迫る赤子たちをその札で撃退しつつ声を飛ばす。

––––ひとり、ふたり、四人、八人、二十人……闇の中から無数の幼児が姿を現してくる。
よちよち歩くもの、はいはいと進むもの、その誰もが満面の笑みを浮かべていた。
「……ちっ!」
ふさは舌打ちした。手もとにあるお札で一体どれだけ倒せるであろうか?
「––––でも、やるしかない!」
一歩踏み出そうとしたふさの右腕を、強い力で制する者がいた。
「……⁉︎」
「古来、『ここはわたしに任せろ』と言って、いのちをながらえた者はいないんでね」
成行は強い力でふさをおのれの胸もとに引き寄せる。
「……あっ!」
驚きの表情を浮かべるふさに、平常を取り戻した成行は力強く持論を語る。
「ここは逃げるに限る!」
ふさの両足を持ち上げ、抱きかかえた成行。階段を降りようとした時、

––––ギャァァァァァァァ!

階下(した)から悲鳴が上がる。
それも複数。
「今日はよく悲鳴があがる日だ」
巨大なイモムシのような上下の唇を(ゆが)めて苦笑する成行は、その筋肉が隆起した太い両腕でふさをがっちりと抱きかかえ、金之助(きんのすけ)(のぼる)がぶざまにのびている階段の踊り場まで飛び降りた。
「はやく起きて逃げろ!」
もはやあたりまえのことしか言えないぐらい事態は切迫していた。

––––オギャー!オギャー!

––––ダァー!ダァー!

階上(うえ)から無数の赤子の妖––––児啼たちが、泣き声と笑い声の合唱をあげて迫って来る。

しおり