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第7話

「なんかヤバそう!」
額に冷たい汗を浮立たせて、(のぼる)成行(しげゆき)の腕をさらにきつく抱く。

––––オギャー! オギャー!

赤子の泣き声が響く。

––––オギャー! オギャー!

……高く、大きなってくる。
 
––––それは闇の中からする。

––––オギャー! オギャー!

––––数もどんどん増えていく。

「……こっちに来る!」
闇の中で(うごめ)く複数の影を金之助(きんのすけ)は見た。

––––ダァー! ダァー!

暗い廊下の奥から幼児が現れた。
まだ立つこともかなわない全裸の赤子が「はいはい」して四人の前に姿を見せる。その数、10人ほど。

––––キャッ! キャッ! キャッ!

赤子はみながみな満面の笑みを浮かべながら進んでくる。

「……絶対、怪しいよね」
升は歯をカチカチ撃ち鳴らして至極(しごく)まっとうな言葉をもらす。
「……もちろん」
横の金之助がこくりと(うなず)く––––その刹那(せつな)、赤子たちは次々、すくっと立ちあがるや驚くべき跳躍力を発揮して四人の大人に飛びかかってきた。

「う、うわぁぁぁ!」
悲鳴をあげた升は顔を覆おうとして成行の腕から手を放す。
「……えっ?」
にじり退がったところ、片足が宙に浮いた––––階段を踏みはずしたのだ。姿勢が大きく崩れ、後ろむきに転げ落ちそうになる。
「あっ!」
声をあげたのは金之助。己の左そでを升がしっかりと握っていた。

「「うわぁぁぁ!」」
升と金之助、同じ言葉を発しながら踊り場までいっきに落下する。
「大丈夫か⁉」
成行は声をあげる。それが精一杯であった。
なぜならば、

––––アハハハハハッ!

屈託(くったく)のない笑みを浮かべた赤子五人が彼の身体––––胸、両腕、両足にとりついていたのだ。
飛びかかってきた時、殴るなり、蹴るなりして突き飛ばすことができたのだが、幼児に力を振るうことにためらいが生じてしまった。

––––ダァーダァーダァー!

「……ぐっ、重い」
成行の身体に抱きついた赤子たちの体重が突然増す。まるで鉄の(かたまり)のようになっている。
その重みに耐えかね全身の骨がミキッミキッと(きし)む。
成行は膝を床につけた。

––––アハハハハハ!

赤子たちは無邪気に笑いたてる。

「……ぐはぁっ!」
両手のひらを床に着く。四つんばいの格好だ。筋肉隆々の成行の腕をもってしても、(あらが)えないほどの重さとなっていた

––––ダァー!ダァー!

「……ッ!」
背中と肩に衝撃を感じた。また新たな赤子が飛び乗ってきたのだ。
振り落とそうにも両手両足は石像のような重さの赤子に抑えられていた。
このまま背に乗った赤子たちが重みを増せば、彼の背骨はへし折れてしまう。
「……」
すぐそこに迫った死への恐怖に、全身の毛穴という毛穴から冷たい汗が吹き出す。
「くそッ!」
奥歯を鳴らす成行。
次の瞬間に来るであろう背中への圧迫を筋肉に力を込める––––それが彼ができる唯一の反撃であった。

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