78
――テオス中庭
ボクが小さく地面に足をつける。
周りを見る。
気配を感じる。
「なんだ、お前か……」
ジルがそういってボクの方を見る。
少し距離がある。
「うん」
ボクが小さくうなずく。
「おまえとふたりになるってはじめてだな」
「うん」
「お前、俺のこと嫌いだろ?」
「え?」」
「ジルから聞いた。
俺にも前世の記憶も少し残っているみたいだ。
罪悪感みたいなのをお前を見ているとそう感じるんだ」
「そっか」
「許してくれっていっても許せるものじゃない。
許してくれると言われて許してもらってもそれは俺の自己満足でしかない。
本当にお前が俺を許せる日はくるもんじゃない」
「そうだね」
ジルは小さく笑う。
「身について身にしみて。
何年経ってもその苦しみから逃れはしないだろう。
俺を見るたびに恐ろしかったよな。
つらかったよな」
ボクはなにも答えない。
「だが俺は今のお前好きだぜ?
お前が俺を嫌っていてもな」
「え?」
「だけどあえて言わせてくれ。
許してくれとは言わない。
すまなかった」
ジルは、ボクに頭を下げた。
「いいよ。
気にしなくて」
ボクはジルに言いたいことは沢山あった。
殺したいくらい憎んでいた。
なのに出た言葉はそれだった。
許すとか許さないとかそういう次元の話じゃない。
認めるんだ。
耐えるんだ。
恨むなと強制されるわけじゃない。
許さなくていいでも恨まなくてもいい。
そこにあるのは強要でもない。
心にやすらぎを求めるため考えなくていいんだ。
ボクはそう思った。
だけど涙があふれた。
その涙が悲しくて泣いているのか。
つらくて泣いているのかわからない。
ただ涙があふれたのだ。
「人間とはなんとも愚かなものだな。」
そういって犬が現れる。
その声はボクには聞き覚えのある声だった。
「犬?」
ジルが首を傾げる。
「我が名はアスペルガー。
我を犬呼ばわりしたこと後悔するがいい」
アスペルガーが口から炎を吐く。
ジルは、その炎を剣で炎を切り裂く。
「犬に犬と言ってなにが悪い?」
ジルは、殺気に気づく。
ものすごく恐ろしい殺気に……
「ボク?」
ジルがそのものの名前を呼ぶ。
「アスペルガー。
ピノの敵取らせてもらうよ?」
ボクがそういってバリアをアスペルガーにぶつける。
「ぐが?
強くなっている……だと?」
アスペルガーが、ボクの方を睨む。
「それがどうした?」
ボクは再びアスペルガーに手を向ける。
「ククク、そうだな。
それがどうしただ……」
アスペルガーが笑う。
「なにがおかしいの?」
ボクが再びアスペルガーにバリアをぶつける。
「この人数、お前らふたりでどうにかでいるか?」
アスペルガーがそういうと空から無数のモンスターたちが降ってくる。
「おいおい、この数……やばくないか?
一旦逃げるか?」
ジルが一歩下がる。
「関係ないよ」
ボクが、再びアスペルガーにバリアをぶつける。
「お前ら殺っちまえ!」
アスペルガーの指示にモンスターたちが従う。
モンスターは一斉に遠距離攻撃でボクとジルたちを襲う。
ボクはバリアでその攻撃を防ぎ。
ジルは刀で攻撃を弾く。
「お前ら!そいつの攻撃の瞬間を狙え!
そのときやつは一瞬無防備になる」
アスペルガーがそういうとボクは小さく笑う。
「なにを言っているの?」
ボクはそういって強力なバリアを一撃アスペルガーに放つ。
「今だ!」
モンスターたちは一斉にボクめがけて攻撃を放った。
炎の魔法。氷の魔法。雷の魔法。風の魔法。光の魔法。闇の魔法。大地の魔法。
そして、銃弾や弓矢がボクを襲う。
眩しくて前が見えない。
火薬の匂いで嗅覚も効かない。
音が激しく音が聞こえない。
そして、すべての攻撃が終わったとき。
ボクは目を疑った。
「なんで……?」
ボクは、ただただ驚いた。
「怪我はないか?」
ジルが、そういって小さく笑う。
身体は穴だらけ。
そして火傷に凍傷。
弓矢も背中に刺さっている。
「怪我はないよ」
「よかった」
ジルが小さく笑う。
「よくないよ!なにしているんだよ!」
「もうお前が傷つくところはみたくないんだ」
「そんな……」
ボクは言葉を失った。
「だってお前はもっと痛かっただろう?
つらかったよな。苦しかったよな。
なのに俺はなにも出来なくて。
俺が出てきてまた苦しめて……
ホント、俺クズだわ」
ジルが涙を流す。
「そんなの……君が気にすることじゃ……」
「気になるだろ?だって俺は――」
ぐちゃ。
ジルの顔がつぶれる。
アスペルガーが前足で潰した。
「ほら、無防備になっただろう?」
アスペルガーが笑う。
ボクの頭がまっしろになる。
「……なにをしているの?」
「どうした?死ぬ覚悟ができたか?」
アスペルガーがそういって殺気を込めてボクを睨む。
「なにをしているの?俺は……」
「死ぬがいい」
アスペルガーが口に炎を溜める。
ボクは、ジルの刀を手に取る。
刀の使い方なんてわからない。
だけどジルが力を貸してくれる気がした。
「さようなら」
そういってボクは刀でアスペルガーの首をはねた。
「な、我の首がはねられただと……」
「まだ死んでなかったんだ」
「まて話せば分かる!」
命乞いをするアスペルガーにボクは言う。
「君に命乞いをする資格はないよ」
「まてお前の望みはなんだ?
金か?名誉か?女か?
欲しいものはなんでもやる!
だから命だけ――」
ボクはその言葉を最後まで聞くこと無くアスペルガーの頭を刀で刺した。
テオス軍幹部のひとり。
アスペルガーをボクは倒した。
しかし、その代償は大きかった。