執事コンテストと亀裂㉚
約一時間後 サンシャイン前
結人たちはサンシャインへ着いた。 今日は日曜日ということもあり、人が凄い多い。
「ねぇ結人。 私、水族館へ行きたいな」
柚乃が優しく微笑みながら、そう口にする。
「あぁ、いいよ。 水族館は上だっけな」
そして結人たちはエレベーターのある場所まで行き、上の階まで上った。 この階が一番人が多いみたいだ。
サンシャイン水族館は上の階にあり、その隣にはプラネタリウムがあるため人がより多く集まる。
藍梨たちとこのサンシャインに来たことはあるのだが、水族館には寄っていなかったため結人もここに入るのは初めてだった。
上の階へ着き、水族館のチケット売り場まで足を進める。
「えっと、大人３人で」
結人が３人分の料金をまとめて払い、チケットを貰った。 そして水族館の入口へ向かおうと歩き出したら、突然背後から夜月に声をかけられる。
「ユイ、金払うよ」
「ん？ あぁ、いいよ。 俺が奢る」
軽く笑いながら、そんな彼に断りを入れた。
「いや、払うよ。 つか俺に全額払わせて」
「は？ 何を言ってんだよ」
「どうせユイのことだから、昨日高橋にたくさん奢ってあげたんだろ」
そう言いながら、夜月は３人分のお金を押し付けてきた。 この後少しの間夜月と言い合った結果、結局結人は彼に奢ってもらう羽目となる。
「悪いな」
「いいって」
そしてやっと、３人は水族館の中へ入った。 だが人が多くて、肝心な魚たちがあまり見えない。 だが折角料金を払ったからか、二人は意地でも見ようと頑張っていた。
「全然見えないですね。 列に並びます？」
「そうだね、最後尾まで行こっか」
二人は列の後ろまで歩き出す。 結人も二人にはぐれないよう、後ろから付いていった。 それからは列に沿って、水族館の中を順調に進んでいく。
綺麗な色をした魚たちが群れを作って泳いでいた。 一匹も欠けることのないように、みんなは頑張って先頭の魚に付いていっている。
それは小さな魚も大きな魚も、どれも一緒だった。
結人はその光景を見た時――――一体何を、思っていたのだろう。
そして広い場所まで来ると、そこではショーが行われていた。 どうやらイルカのショーみたいだ。 その光景を見つけると、柚乃は勢いよく振り返り笑顔で言葉を発する。
「ねぇ、見に行こうよ！」
「俺はここで見ているから、柚乃は近くで見てこいよ」
「えー・・・。 一人は嫌だなぁ」
そう言いながらも、彼女は人ごみの中へと入っていく。 結人は柚乃の姿を見失わないよう、ずっと彼女の背中を目で追っていた。
「どうしたんだよ。 楽しくねぇのか？」
夜月が隣に来て、普段よりも静かな結人に違和感を感じ小さな声でそう口にする。
「別に。 特に今は、何も考えてねぇよ」
そう――――本当に今は、何も考えていなかった。
「昨日高橋とはどうだった？」
心配そうな面持ちのまま、彼はそう尋ねてくる。
「昨日は楽しかったよ。 渋谷へ行ったんだ。 たくさん遊んで俺も楽しかったし、梨咲も満足してくれた」
「そっか」
そう言って、彼は優しく笑った。
「・・・あと、梨咲とは話がついた」
「話？」
そう聞き返してくる夜月に、小さく頷く。
「あぁ。 ちゃんと振った。 ・・・というより、梨咲から『振ってほしい』って頼まれた」
「・・・」
そう言うも、夜月は何も返事をしてこない。
―――・・・俺のこと“情けない奴だな”って思ったのかな。
「梨咲のことはもう終わったから、これからは藍梨のことを考えていこうと思っている」
そう口にすると、彼は溜め息交じりでこう呟く。
「まぁ、藍梨さんのことはいいんだけどさ。 ・・・柚乃さんのことも、少しは考えたら？」
「柚乃？」
そう聞き返すと、夜月は一度深呼吸をして間を空けた後、結人に向かってハッキリとこう口にした。
「ぶっちゃけ俺は、柚乃さんとユイのカップルは悪くないと思っているよ」
「は！？」
突然の発言に戸惑い、言葉が詰まってしまう。
「いや、別に藍梨さんを否定しているわけじゃないんだけどさ」
「・・・」
結人は何も言わずに、夜月から出る次の言葉を待った。
「柚乃さんとユイってさ。 何か、ちゃんと役がなってんじゃん。 ユイは喧嘩は強いけどたまには弱いところもあって、すぐに挫けてうじうじしたりしてさ。
でもそんなユイを、心が強い柚乃さんが守ってくれる。 柚乃さんはユイにとって、心の支えだったんだよ。 そしてユイは、柚乃さんを外から守っているって感じ」
夜月は、続けて言葉を放つ。
「でも柚乃さんとは別れて、今は藍梨さんと付き合っている。 藍梨さんとユイってさ、何か性格が正反対じゃん。 性格っていうか・・・キャラっていうか。
ユイは柚乃さんに甘えっぱなしだった。 そんなユイのことを、俺は少し心配したりもした。 だけど藍梨さんとユイが付き合ってから、俺の思いも変わったんだ。
今度はユイが、藍梨さんを守る番なんだな・・・って」
「・・・夜月」
「今は彼女が藍梨さんなんだ。 藍梨さんは心の癒しにはなるだろうけど、柚乃さんみたいにきっと心はそんなに強くない。 今のユイたちの状態を見ていれば、そのくらいは分かる」
そして夜月は結人の方へ向き直し、目を合わせながらこう言った。
「だから今度は、ユイが藍梨さんを守る番・・・だろ？」
―――俺が、藍梨を守る番・・・。
「もう、柚乃さんにはこれ以上甘えられないんだからさ。 ・・・柚乃さん、もう少ししたら横浜に帰るって」
「・・・え？」
―――柚乃が、横浜に帰る？
「柚乃さんが自分からそう言った。 『こんなにも結人と会えないなら、やっぱり私じゃ駄目だったのかな』って」
「それって・・・」
―――梨咲と、同じだ。
「だからさ。 今度はちゃんと、ユイから言えよ。 柚乃さんからは言わせるな」
それは――――結人も思っていたことだった。 梨咲には先を越されて言われてしまったが、柚乃と藍梨のことに関しては自分から話をつけないといけない。
それは結人だって十分に理解している。 これ以上は、みんなに甘えることなんてできないのだ。
「あぁ、もちろんだよ」
結人は覚悟を決め、そう返事をした。 そしたら夜月はそんな結人を見て安心したのか、笑いながら言葉を発していく。
「よし！ それじゃあ、今は楽しめ！ 折角今は柚乃さんと一緒なんだ、この時間を大切にしろよ」
「おう」
彼につられ、結人も笑った。 するといつの間にかショーが終わったみたいで、柚乃が結人たちの方へ向かって走ってくる。
「よーし柚乃！ 次はペンギンコーナーまで競争だ！」
「え、競争？」
「夜月も遅れんなよ！ そんじゃ、レディー・・・ＧＯ！」
そして――――結人たちは一斉に走り出した。
