第2話
「……ここは天国?」
––––そうとしか思えない。
咲く時期の違う
「……まだあなたは生きているわ」
温かく優しさに満ちた女性の声が耳に流れこんでくる。
白く細いふたつの腕が、金之助の肩から胸へとまわされる。
「……生きてください。わたしの分まで……」
耳元に
「……
首を曲げて、おのれを抱いている者の顔を見る。
そこには
義姉と言っても金之助と同い年、二十二歳の若妻––––そして金之助の理想の女性であった。
––––美しい人。
のちに「
––––物静かな女性だった。
陽気な兄の横にいると、まるで空気と同化しているかのように
この義姉の前に立つと、金之助の心臓は高鳴り、上気して頭がクラクラする。
初恋––––だったのかもしれない。
「……義姉さん! 義姉さんはまだ生きている」
彼女はもう何年も病いに
だが、死んではいない。
––––何より、いま金之助を後ろから抱き寄せているその身体は、血がかよっていることを
「……いまは、生きています。でも、もう……」
消え入るようなその言葉の語尾が震えていた。
「……あなたに、残りの命をあげます!」
涙声––––しかしそれはとてつもなく力強かった。
「そ、そんなの……いりません!」
登世の腕を払いのけ、金之助は振り返る。
––––死んだ兄たちと違い、確かに登世はそこにいた。が––––
「……!」
金之助は息を呑んだ。一糸まとわぬ、生まれた時の姿で彼女はいた。一瞬で顔を朱に染め抜く。
「……な、な、なんで、裸なんですか⁉」
声をうわずらせなが、視線を外す。
「……生きてください」
涙を流しながら登世は抱きついてきた。
腕を金之助の背にまわす。
「い、言われなくたって、生きます! これから百年生きますよ!」
金之助は登世を力の限り抱きしめ、寄せた。
「……嬉しい」
「……義姉さん」
「んんん〜むむむむ!」
登世のやけに気合いの入った声と、暴牛もかくやの鼻息の荒さに金之助ははっとして目を開いた。
––––そこに登世はいなかった。
「う〜ん、ちゅぱちゅぱ!」
代わって、タコのように唇とがらせた
「……いやァァァァァァァァ!!!」
––––スパパーンッ!
絶叫とともに金之助は渾身の平手打ちを升に加えた。