第1話
––––そこは、ひだまりのような穏やかな光に満たされた静かな––––とっても静かな場所であった。
「……」
身を横たえ、優しく頬をなでてゆくそよ風の中、うつらうつらとしていた
「よぉ、金之助。どうだい小説の方は?」
声の主は、金之助にうりふたつの青年––––兄の
「新しいおまえの小説、楽しみにしているぞ」
後ろから声がして、金之助は首をねじ曲げ、見る––––そこにも、彼とよく似た人物がいた。
十歳上の長兄
文学の道を志した末弟の行く末を
「兄さんたち!」
金之助ははね起きた。久しぶりの兄たちとの再会に胸が踊る。
ふたりの兄は、金之助の肩や腕をさわり、
「また背が伸びたか?」
「もう立派な大人だな」
兄ふたりは楽しげに笑う。
「兄さんたちもおかわりなく!」
金之助は素直なよろこびの声をあげた。
––––ふたりは笑うのをやめ、苦笑を浮かべる。
「……え?」
その変化があまりに露骨だったので、金之助は笑顔のまま固まる。
––––と、信じられないことに兄ふたりは
ほんの数瞬前まで兄たちがいたその場所に踏み出し、左右を見回す金之助。
「……いない」
はじめから存在していなかったように、跡形もなかった。
––––だが、声はする。
天から降ってきたか、はたまた地から湧いてきたのか、耳もとで
「おまえはまだこっちにきちゃダメだ」
「そちらで、日々研鑽、一心精進して、大成するのだぞ」
ふたりの笑い声が響く。
「……あぁ、兄さんたち……もう、この世にいないんだっけ……」
ふたりとも、二年前にこの世を去っている。
それに気がついた時––––世界が壊れた。
あとに残るは、漆黒。
黒一色が勢いよく広がり、金之助の視界すべてを塗つぶしていく。
「……あ、あ、あ、あぁぁァァァ!」
絶叫しているつもりでも、ただ唇を揺らしているだけかもしれない。
そこから逃げ出すように駆け出した。だが、同じ場で足踏みしているだけかもしれない。
––––黒以外、もう何も見えなかった。
自分の息づかいすら、聞こえない「完全なる無の世界」に金之助はいた。
(……これが、死ぬってこと?)
金之助は心の中でつぶやく。
––––か細い声がした。
「……あなたは、死なない」
彼の心を見透かすように、若い女性の声が耳元で囁く。
「……だ、誰?」
死の恐怖に目を強くつむったまま、金之助は声の主に問う。
「落ち着いて。もう大丈夫……」
「目をあけて」
優しくそう語る。
「……!」
景色が一変していた。
ほんの少し前に、墨一色に塗りつぶされたはずの世界が、いまは白く光っている。
純白––––ではなかった。どこまでも続く真っ白な景色の中に、ところどころ緑と黄とが散りばめられている。
「……花⁉」
目を
ふたつの花が、空の青さも土の色も見えぬほど咲きに咲き誇っている。