最終話
妖怪の話から己の気質の話に変わり、突然
若くして名声を得たため、やっかみもあって山田美妙という青年小説家の性格、世間では評判がすこぶる悪かった。
書く小説の多くが恋愛ものだから、読者も若い女性が多く、町を歩けばつねに黄色い声に包まれる。
これが「
それを知った美妙、おこないを
そんな自分を
「
「……それが、なんで人間をみな殺しにして、妖怪の国を作ろうなんて……」
「明るくなり過ぎたんだよ、この国は。精神的にも物理的にも」
と、
––––蘇峰は言う。
「開国して、西欧の文明が
「……それって」
「そう、妖たちは生きる世界を追われたのだよ」
「……つまり、妖怪たちは行き場をなくした、と」
「そう。わずかばかりになったこの国の『闇』に、身をよせ合ってひっそりと息を殺して生きていくしかなくなった。西洋から文明の大波がこの小さな島国を飲み込んで二十余年。日本人の生活様式はがらりと変わった。それはこの国に巣くう妖怪の世界も同じこと––––ただし、彼らにとっては発展でも進化でもなく、衰退と消滅への
土御門が継ぎ、
「きゃつらに残されたのは、滅びの道あるのみ……と、思っていたのだがね」
その広くなった額に、手にするそろばんをあてる。苦いものを飲み込んだように、鼻の頭にしわが寄った。
「一匹のヒツジに率いられた百匹のオオカミの群れより、一匹のオオカミに率いられた百匹のヒツジの群れのほうが強い––––この言葉、美妙先生なら知っているよね?」
「……え? あー、たしか
「現れたのだよ、そのか弱き妖怪どもの前に、
「光におびえ、人を恐れ、もはや座して滅びの時を待つだけの妖怪たちの前に
そう語る
「……何もんだよ、その妖怪の奈破翁ってのは?」
普段の美妙の喉からは決して出ることのない、打ちのめされた獣のようなうめきをふたりに放り投げる。
「……どんなバケモノなんだよ、そいつは⁉︎」
蘇峰は目を
「……バケモノ? たしかに、ヤツはバケモノだ。怪物だ。だが『人間なのだよ』」
「……人間? 人か!?」
「あぁ、君もよく知っている人物……いや、日本人なら誰もが知っている男さ」
土御門は
「男? 妖怪どもを
「そうだ……その男の名は––––」
––––ギャギャギャギャァァァァァァァ!
窓ガラスがびりびりと震えるほどの大音声の鳥の鳴きごえ––––三人を乗せた馬車は、いま