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第10話

––––クケェェェェェェェェェ!

目が見えないまでも、得物(ぶき)を失った林太郎(りんたろう)(ひる)んでいるのを感じ取るや、バシリスクはいよいよ勢いづいて、刀剣よりもはるかに強力なその巨大なくちばしを振り下ろす。

「……うっはっ!」
頭上高くから突きだされてくる死の疾風を、林太郎はすんでのところでかわす。

––––バゴーン!

床板が貫かれ、砕け散る。
「……これは強烈だ」
胸に直撃しようものなら、肋骨砕け、心臓破かれてしまう。

––––ギケケケケケケケケッ!

頭を戻したバシリスクは、さらに目にも止まらぬ速さで刺突(しとつ)を繰り出す。

横へ後ろへと身をひるがえし、林太郎はそれをかわしていく。が、身にまとう白衣のいたるところが破け、ちぎれ飛ぶ。

「……ちょっと、これ、まずいかも」
全身の毛穴から冷たい汗が吹き出る。確実に、そして急速に死が林太郎に迫っていた。

––––コォケケケケケケケッ!

いよいよ勝ちを確信したバシリスクは、天に向かい咆哮(ほうこう)した––––が、その後半は、

––––ギャァァァァァァオン!

絶叫となった。苦痛に身をよじるような悲鳴。

「……⁉︎」
林太郎が気づく間もないぐらいに素早く、もしくは息をひそませ、バシリスクの前に音もなく立つ者がいた––––それは、ふたりの少女。手には槍。ふたつの長大な得物(えもの)が、化鳥の双翼をそれぞれ突き通す。
 
雪のように舞う、大量の白羽を()かして林太郎が見たのは、頭に大きなリボンをつけた白矢絣(しらやかすり)小袖(こそで)紫袴(むらさきはかま)の少女。そして、白ブラウスに赤いスカートに身を包み、腰まで流れた黒髪の少女。

「せいやぁ!」
「うりゃぁ!」
ふたりの少女は、声をそろえて槍を持ち上げる。

––––ズン!

翼を貫いた穂先は、天井に深々突き刺さる。

––––ギャァァァァァァァァァァ!

バシリスク、啼泣(ていきゅう)。両足が床から離れ、二本の槍に突き刺され、妖鳥は宙に吊り上げられた。

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