第9話
「……色々傷つくんですけど」
ぼそりつぶやくマムシの周六。
それを聞き流しながら、
「
マムシはツバを吐く。
林太郎は小さく肩をすくめた。
「土御門先生にも、まさか
「ケッ、
「むしろ、わが国最高峰の千里眼の裏をかいてくるなんて、
「……林太郎、おまえ、なんか楽しそうだぞ」
「え? またぁ〜そんなぁ、そうですかぁ〜そんなことないですよ〜」
否定しつつ、林太郎の口もとはゆるみっぱなし。目じりに喜色がうかんでいた。
「
言うなり、刀をかまえてバシリスクへと斬りかかる。
「あ、おいそれ、『伊賀守金道』じゃなくて『
マムシは
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
林太郎は、手にした「伊賀守金道」を縦横に振るう。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
まぶた重そうな
再生しようと
「マムシさん、いまです!」
尾である大蛇に復活の間もあたえず、白刃走らせバシリスク本体––––巨大な鶏に迫った林太郎は叫ぶ。
「お!見せ場を上役に譲るその心遣い、お前、出世するな!」
マムシは喜声はじかせて、湯島の山奥で手にして以来、ちゃっかり己の
「今夜は水炊きで決まりだ!」
マムシがバシリスクに斬りかかる––––が……
––––ドシュ!
鈍い音が鳴るのと同時に、マムシの身体が「く」の字を書いて吹き飛んだ。
「……ウソでしょ⁉︎」
林太郎は唖然とした。
バシリスクは黄色く濁った三本の足の指を振りかぶり、振り抜き、マムシに叩きつけ、突き飛ばしたのだ。
圧倒的な打撃力。
––––クッケェェェェェェェェェェ!
黒光りするバシリスクのくちばしが、目にも止まらぬ早さで林太郎に迫る。
両眼を失った妖鳥は、感覚だけで
「……ッツ!」
手にする「伊賀守金道」を横に構えて、槍か
––––パキキキーンッ!
高く澄んだ音を響かせ、「伊賀守金道」はバシリスクのくちばしの前に屈した。半ばから折れ、弾け飛び、数回円を描いて廊下の壁に突き立つ。
「……⁉」
刃の折れた箇所を見つめつつ、声をしぼり出す。
「そこまで史実にそわなくてもいんじゃない」
林太郎は苦笑する。
「伊賀守金道」––––マムシの言った通り、金道の弟、和泉守金道が作りしものなのかも知れないが––––最初の持主である剣豪荒木又右衛門が鍵屋の辻の決闘で手にした時も、敵方の打撃を受け、刀身が真っぷたつに折れた。