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執事コンテストと亀裂⑪




放課後


結局この後は、藍梨とは何も話すことがなく放課後を迎えてしまう。 相変わらず互いに気まずいままで“隣の席”だというだけでもかなりの苦痛だった。
「さて、どうやって捜すかなー」
校舎から出て、隣にいる夜月が周囲を見渡しながらそう言葉を放つ。
「やっぱり『レアタイについて何か知りませんか』って、聞き込みをするところからかなー・・・。 つか、レアタイのことは立川の人たち知っているんだよな?」
できれば今日、赤眼虎についての情報はある程度聞き出して把握しておきたかった。 
明日から結人はコンテストの練習があるため、夜月一人に負担をかけてしまわないように。 だからそうなる前に、何かしらの情報を――――

~♪

すると突然、ポケットの中にある結人の携帯が鳴り出した。 
結黄賊としての“何が何でも、通話の相手はすぐに確認しなければならない”というルールを守るため、躊躇いもなく着信元を確認する。

だが相手は――――結人が今、一番話したくない相手――――柚乃だった。 

結人が出ることを躊躇っていると夜月が『出てみろよ』と言ってきたので、仕方なく電話に出ることにした。
「・・・もしもし」
『もしもし結人? お願い助けて!』
「ッ・・・」
柚乃の焦る声が突如電話越しから聞こえ、結人は一瞬にして漠然とした不安に包まれる。
「おい、何があった」
真剣な面持ちのままそう尋ねると、隣にいた夜月が結人の反応を見て身を乗り出してきた。
『今ね、ストーカーみたいな人に追われているの』
「今どこにいる? ・・・あぁ、分かった。 今すぐそこへ行くから、そこから動くなよ」
電話を切ると同時に、夜月に向かって言葉を放つ。
「悪い夜月、俺行ってくる!」
「は? おい待てよ!」
この場から走って立ち去ろうとすると、夜月に手首を掴まれ行くことを阻止された。
「夜月頼む、行かせてくれ!」
その手を振り払おうと思い切り腕を動かすが、彼は更に強く握り締め結人を放そうとしない。
「夜月!」
「今からユイはどこへ行くんだ」
感情的になってしまっている結人とは反対に、夜月は冷静さを保ったままそう口にする。 そして結人が答える隙もなく、続けて言葉を発した。

「藍梨さんのところか?」

彼から出た“藍梨”という言葉を聞き、結人は少しだけ落ち着きを取り戻す。 そしてその調子のまま、言葉を返した。
「・・・違う。 柚乃のところだ」
「だったら行かせない」
「ッ、夜月! 頼むよ!」
「駄目だ。 ユイが柚乃さんの方へ行きそうだったら、俺はユイを止めるって言っただろ」
力強く発言する夜月に、結人は小さな声で呟く。
「夜月・・・。 柚乃は今、ストーカーに追われているみたいなんだ」
「・・・」
そう口にすると、夜月は結人の手首をそっと手放した。 そして溜め息をつき、結人に向かって口を開く。
「・・・分かったよ。 じゃあ、俺も柚乃さんのところへ行く」
「え? いや待てよ。 夜月は」
「そんなことを言っている場合かよ。 心配すんのは俺じゃなくて、今は柚乃さんの方だろ。 ・・・俺も、一緒に行っていいよな?」
夜月は心の底から、自分を止めようとしてくれている。 そんな彼の気持ちは、結人でもすぐに伝わってきた。

―――迷惑をかけたくないと思っていても、実際は色々なところで迷惑をかけているんだろうな・・・。
だが結人が“心配させたくないから”と言ってみんなから離れようとすると“逆にそれが迷惑だ”とも言われる。
―――そういう・・・もんなのかな。

「・・・分かった。 夜月、ありがとな」
夜月の優しさを素直に受け止め、二人は柚乃のもとへと走って向かった。


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