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「ん?来たようですよ」
そう言ったのは、ですますスイッチのマネージャーのキサラギだ。
「よ!キサラギ」
ジョーカーが手を上げて挨拶をする。
「お久しぶりです。
ジョーカーさん」
キサラギが、そういって顔を上げる。
「相変わらず目は……」
ジョーカーがそういうとキサラギがうなずいた。
「はい、見えておりません。
お気遣いありがとうございます」
キサラギの口元が緩む。
「あ……」
ピロシキが、キサラギの方を見て驚く。
「この魔力は、先日面接に来た方ですね?」
「あ。はい」
ピロシキが、一歩下がる。
「なんじゃ。
この場所に来たくなかったのはさては、お主……
また何かやらかしたのか?」
アザゼルがそういってため息をついた。
「えっとっすね」
ピロシキが戸惑う。
「まぁ、そんな大したことはしていませんよ。
警備スタッフ募集での魔力適性試験で、試験管に勝ってしまったのです」
「怪我させたのか?」
アザゼルの眉がピクリと動く。
「怪我はしていませんよ」
「そうか。それを聞いて安心したわい」
「まぁ、試験管より強い人は使いにくいってことで縁がないとしたのですが……
縁、ありましたね」
キサラギがそういって笑う。
「それより!ボク!元気そうでよかったぜ!」
灰児が、嬉しそうに笑う。
「そうだね。
元気でなによりだよ」
裕也が苦笑いを浮かべる。
「あの心配かけてすみません」
「気にしなくていいよ」
ボクの謝罪に新一が小さく笑う。
「でも、よくフィサフィーから逃げ出せたな?」
「イリアさんのワープ術に救われました」
「イリア?イリアって妖精王の妹の?」
灰児が驚く。
「知っているんですか?」
「いや、知っているもなにも……」
灰児がそういうとイリアが現れる。
「あ。ナンパ男……」
イリアがボソリと呟く。
「ナンパじゃと?」
モスマンも現れる。
「うん。私あの男の人にナンパされたの」
イリアがそういうとモスマンが、灰児に近づく。
「いやぁ……」
灰児が、汗をかいて焦る。
「主、凄いな。
あんなじゃじゃ馬のどこがいいのだ?」
モスマンが、小さな声で灰児に耳打ちした。
「綺麗ですよ?とっても……」
「綺麗か?綺麗のぅ……」
「ちょっと!?聞こえているんだけど?兄さま!」
イリアが、モスマンの背後に立つ。
「……聞かなかったことにしてくれ」
モスマンがそういって灰児から離れた。
「賑やかですね。賑やかでしょう?」
キサラギがボクに尋ねる。
「あ、はい」
「あなたの魔力。
おもしろいですね」
「え?」
「あなたの魔力は、大きいけど弱い。
レベルも1の状態で止まっています。
呪いのようですね」
「そうなのですか?」
「はい。
ちょっと失礼しますね」
キサラギがそういってボクの額に人差し指を優しく当てる。
するとボクから強大な魔力が溢れる。
「え?」
その場にいた全員が、その魔力に驚く。
「まさかのぅ……
あの呪いをいとも簡単に解くとは……」
アザゼルが驚く。
「すげぇ」
灰児も驚く。
「さすがキサラギ殿だな!」
モスマンが感心する。
「もしかしてボク強くなったとか?」
ボクの旨が少し驚く。
前世読んだネット小説だと異世界転生すると強くなって無双できる。
そんな話に憧れていた。
自分はもしかしたらそうじゃないか?
そんなことを思っていた。
「いや、レベルがあがるようになったって感じかな。
レベル1で、資質が9000以上あるからなかなかレベルはあがらないけど強くはなれるよ?
がんばれば……」
「9000?」
ボクはその数値を聞いてがっくりと肩を落とした。
資質とはレベルがあがるのに必要な数値のことで、その数値が高ければ高いほどレベルが上がりにくい。
そして、その数値が高いからといって強くなれるとは限らない。
ただレベルの上限が高く最終的に強くなれる可能性があるというだけだ。
「ま、がんばれ少年!」
モスマンが、そういってボクの頭をゴシゴシと撫でた。