執事コンテストと亀裂⑦
この後未来たちと別れ、結人は一人教室から出た。 特に行く当てもなく、適当に廊下を歩いていく。
―――レアタイのことと言い、藍梨のことと言い・・・俺は、どうしたらいいんだ!
一度に起きたたくさんの出来事を、一人で抱え込みながら歩いていると――――急に背後から、聞き慣れない声が耳に届いてきた。
「ん?」
あまりにも突然だったため、慌てて後ろへ振り返ると――――そこにはアイドルだと言っても過言ではない程の、可愛らしくて美しい女性が結人の視界に入る。
―――あれ、この女子・・・。
この生徒には、少しだが見覚えがあった。 彼女の記憶を辿ろうと、必死に思い出す。
―――御子紫の件でよく1組へ行っていた時、確かいたような・・・?
記憶を蘇らせていると、唖然としていた結人を見て何かを思ったのか、目の前にいる女子はいきなり眩しい笑顔を結人に向かって見せてきた。
「私は高橋梨咲。 よろしくね」
突如名乗られ一瞬戸惑うが、すぐに気持ちを切り替え彼女に対して結人も笑顔で言葉を返す。
「君みたいに可愛い女子がー、俺なんかに何か用っすかー?」
同級生だと知りながらも敬語もどきでそう尋ねると、彼女はなおも笑顔のまま単刀直入に用件を述べた。
「執事コンテスト、結人くんと一緒に出たいなぁと思って」
「は?」
―――何・・・言ってんだよ。
“どうして俺の名を知っているのか”ということには、あえて触れないようにした。 彼女のその一言で機嫌を損ねた結人は、溜め息交じりで言葉を返していく。
「悪いけど、俺には彼女が」
「七瀬さん、でしょ?」
梨咲は結人の発言を遮って、結人の彼女の名を口にする。 急に藍梨の名が出てきて驚くが、一学年の大半は結人たちカップルのことは広まっているため特に気にはしなかった。
「知ってんなら、どうして俺を誘うんだよ」
「付き合っているのは知っていたよ? だから、結人くんを誘うのは最初諦めようと思っていた。
・・・だけど、今日二人の様子を見ていたら、そんなに仲よくしていなかったから」
梨咲は結人から視線をそらし、寂しそうな表情を見せてくる。 だがそんな梨咲には気にも留めず、更に彼女に向かって質問をぶつけていった。
「じゃあ、どうして俺なんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、梨咲は再び目を合わせ可愛らしく微笑んだ。
「好きだからだよ? 入学式の時、私は結人くんに一目惚れしたの。 ・・・でも結人くん、七瀬さんばかり見ているから。 アタックするのは、止めようと思って」
「・・・」
何も言い返すことができず黙っていると、彼女は続けて言葉を放つ。
「でも、やっぱり諦め切れなかった。 今日、見ていて思ったの。 結人くんと七瀬さん、付き合っている割にはあまり仲よくないなって。
だから、それをチャンスだと思って声をかけた」
―――おいおい、それだけの理由で俺を誘ったのかよ。
―――そんな理由でOKするはずが・・・。
「伊達直樹くん」
「え?」
梨咲の誘いに対してどう断ろうかと迷っていると、彼女は突然伊達の名を口にした。 その名に思わず反応すると、梨咲は確信したかのように余裕を持って言葉を続けていく。
「直樹くん、七瀬さんを誘ったんでしょう? コンテストに。 まだ、返事はもらっていないみたいだけど」
―――・・・伊達のことは、やっぱり噂になって広がっていたんだ。
「悔しくない?」
その言葉を聞いて俯いていた結人を、彼女は下から覗き込んできた。
―――悔しいか、って・・・。
―――それって“藍梨が伊達に取られて悔しくないのか”っていうことかよ。
それでもなお何も言えずに黙っていると、梨咲は真剣な表情をして力強く言葉を発した。
「コンテストだけでいいの。 コンテストに一緒に出てくれたら、私結人くんのことを諦めるから」