バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第3話

「ちょっと、俺も行く」
覆いかぶさった無数の本をはらいのけ、(のぼる)もふたりの後を追う。
だが、部屋を出たところで、廊下の真ん中で突っ立っている成行(しげゆき)の、その断崖(きりぎし)のようにごつごつとした背中にぶつかる。
「うわっ、何やってるの!」
したたか打った鼻をおさえ、成行の横をすり抜けようとした升は、
「まてっ!」
丸太のような腕でさえぎわられる。
「え? ……えぇっ⁉︎」
とめられたことに声をあげ、とめられた理由にさらに大きな声をあげた。

廊下に––––大蛇がいた。

––––シャー、シャー、シャー!

鎌首持ちあげ、赤く長い舌をチロチロ動かしていた。その胴まわり、升の太ももほどもある。
「……飼っている、わけではないよね?」
「まさか!」
苦笑交じりに否定すると、升に「見ろ」とあごで廊下の先を指す。大きな穴が開いていた。そこから大蛇の体が伸びている。
「どうする?」
との金之助(きんのすけ)の問いに、
「部屋に戻って外に出る。警察を呼ぼう」
成行はこたえる。三人視線は大蛇のまま、後ずさった。

––––と、その時、大蛇が動いた。

––––シャァァァ!

カッと鋭い牙列(きば)をむき出し、飛びかかってきた。
獰猛なあぎとが先頭の成行に食らいつく––––その寸前、
「ふんぬ!」
成行は両手で大蛇の首を押さえた。

––––シャァァァ!

大蛇は食らいつこうともがくが、成行の怪力がそうはさせじと、ギリギリとつるし上げる。
「はっ!」
短い気合とともに、素早く身をさばいて大蛇の首を右わきに(かか)えこむ。そして、グイグイ締めあげた。

––––シャシャシャシャ!

身をよじり、激しく抵抗する大蛇。

「おらおらおら!」
両足を踏んばり、ガッチリ押さえこんだ成行は、さらに腕に力を込めた。腕と胸の筋肉が膨張し、無数の筋と血管が浮かびあがる。
このまま大蛇の首をへし折る段になった時、

––––コォケケケケケケケッ!

異声が響いた。
と、同時に、床板が膨れあがり––––破裂した。
「な、な、な、なんだ⁉︎」
升たちの眼前が一瞬で真っ白になる。
「羽?」
と、金之助。彼らの視界を覆っていたのは、ゆらり宙を舞う羽毛であった。

––––コケケケケッッ!

廊下の床板をつらぬき、天井にぶちあたってそこに現れたのは、巨大な鶏––––深紅のトサカを持った雄鶏(おんどり)であった。

「……あっ!」
突然床を突きやぶり、土煙あげて出現した自分の身丈の倍はあろう巨大な鶏に唖然とした成行の、その腕がゆるんだ。それを逃さじと、大蛇はスルリと頭を抜く。
そして、首を大きくり振りかぶり、成行に叩きつける。
巨体はたやすく宙に浮いて吹っ飛び、
「くぐっ!」
壁に激しく身体を打ちつける。短くうめいて彼は昏倒(きぜつ)した。

反撃を終えた大蛇は、シュルシュルと鶏の下へと逃げる。

––––シャー、シャー、シャー!

––––シャー、シャー、シャー!

––––シャー、シャー、シャー!

巨大鶏の尾は、うごめく無数の大蛇でできていた。
「…な、なんなんだよ、コイツ!」
異様な光景に金之助は声を失い、升は声を震わせる。

––––コケケケケケケケッ!

巨大鶏は勝ち誇った雄叫びをあげた。

しおり