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第2話

 
挿絵


金之助(きんのすけ)くん、鬼に斬られた傷を見せてくれたまえ」
「……あ、あぁ」
いきなり脱げと言われ、戸惑いつつも妖異に精通している成行(しげゆき)には何か考えがあるのだろうと、金之助は胸をはだけさせた。
「……って、なんであんたが脱いでんだよ!」
(のぼる)は怒鳴る。成行も上着を脱いで、上半身を(あら)わにしていた。
 
その身体、肩も腕も、胸も腹も、筋肉という筋肉が隆起していた。まるで名匠(たくみ)の手による金剛力士像のようである。
人体はこれほどまでに凹凸(おうとつ)をあらわすことができるのかと思うほどの隆々(りゅうりゅう)ぶりであった。

「ちょっと傷の具合を見せてもらうかな」
成行は十指を触覚のようにくねくねと蠢動(しゅんどう)させなが、金之助の胸へ手を伸ばす。
「気色悪いわ!」

––––ゴッッ!

升は手にした大きな「こけし」で成行の後頭部をひっぱたいた。

「ほんの冗句だよ、のぼさん」
頭をさすりながら、ならびの良い白い歯を見せ、大胸筋をビクッとビクッと動かしながらまぶしいばかりの笑顔を向ける。
「ひっ……」
ひき気味で、
「いいから、はやく見てっ!」
升は金之介の傷を指さす。
「しかし、これは、見るまでもなく」
岩石のような顔を金之助の胸元に近づる成行。
「相当な縫合(ほうごう)技術だ。誰にやってもらったかわからない?」
「……あ、ああ」
金之助はうなずいた。まったく記憶にない。
––––あの夜の出来事は、酒の匂いをプンプンさせた坊主に倒れかかったところで途切れている。
そこから朝陽を浴びて山道で目を覚ますまで、何が起こったか一切おぼえていない。いつの間にか傷の処置をされていた。

「若い医者……だと思う」
升も同じく朝まで一度も起きなかった。気を失ったように眠る直前、山奥には似つかわしくない白衣の医師を見た。
––––たぶん彼が()い合わせたのではないか。
なぜそのような人物がその場にいたのかも、あの夜の不思議な出来事のひとつである。

「『山で鬼に()う』という話は古今問わずよく聞く話だが……」
そばにあった本の柱の中から、一冊を引き抜き、成行はペラペラとめくる。
おどろおどろしい挿絵がふんだんに盛り込まれた、鬼についての本であった。
「刀を持って斬りかかってくるというのは、あまり例のない話だね」
「……はぁ」
きれいに縫い合わされてはいるが、あの夜、鬼に追い立てられた恐怖を思い出すとズキズキと傷が痛んだ。

「ゲッ!」
成行が途中から引き抜いたため、均衡を崩した本の柱が二度、三度、天に向かい円を描く––––そして、升めがけて倒れる。
「むぎゅゅゅ!」
本の雪崩(なだれ)が升を襲う。少女武者に続き、またしても彼は下敷きになって(うめ)いた。
その惨状を目の(はし)に流し、成行は続ける。
「……そこで『鬼』や『(あやかし)』について、わたしより詳しい先生をおふたり呼んでおいた」
––––と、「すみません」と玄関で声がする。
「おいでになられた」
上半身はだかのまま、客人を迎えに玄関に向かう。
成行をして「先生」と言わしめる人物たちである。礼を(しっ)してはいけないと、金之助もあとに続いた。

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