51
青年は、両手を拘束された状態で部屋に入れられる。
そして、ジョーカーが尋ねる。
「まず名前だな」
「あっしの名前は、ピロシキでやんす」
ボクにはそれが嘘だと思った。
ピロシキは、自分の前世のときに存在した芸人の名前だ。
でも、ボクはなにも言わない。
それが嘘だという確信が持てないからだ。
「で、目的は?」
ジョーカーの声が低い。
「ちょっとした悪ふざけでやんす」
「はぁ?
お前喧嘩売っているのか?」
ジョーカーが、そういってピロシキの胸ぐらをつかむ。
「べんべんべんべん」
ピロシキがそういうとジョーカーの目の色が変わる。
そして、無言でピロシキの錠を外す。
「ジョーカー?」
一花が、そういってジョーカーの肩を叩く。
「あ?」
ジョーカーが我に返る。
「あっしの能力は、冗談で怒った相手を数秒操れるんっすよ」
「え?」
一花が驚く。
「笑わなかった相手を操るんじゃないの?」
「あっし、こう見えてデモニックなんですよ」
「デモニック?」
ボクが首を傾げる。
「人間の世界で言う咎人のことよ。
つまり複数の特殊能力を持った人のこと」
プレゲトンがそういって手を刃物に変える。
「……ほう?
その刃であっしを殺す気ですかい?」
ピロシキがそういってサングラスを付ける。
「そうよ!さようならピロシキ!」
プレゲトンが、そういってピロシキの身体を刃で斬りつける。
「いえいえ、これからお世話になるので。
はじめまして人間です」
「お世話?」
プレゲトンの刃は、ピロシキの素手で掴まれる。
「なにをしておる?」
そういって現れたのはアザゼルだった。
「お、アザゼルさんじゃないっすか。
あっしを言われぬ罪で殺す気ですよ?この人たち」
ピロシキがそういうとアザゼルはボクの方を見る。
「ボク。説明できるかいのう?」
「えっと……」
ボクはわかる範囲でアザゼルに事情を話した。
「そうか、一花、ジョーカーすまない。
そして、プレゲトン、ボク、紅鮭。
主らもすまない、この男ピロシキはワシの友人の孫じゃ」
アザゼルの言葉に一花は眉をしかめる。
「そうなのですか?では、なぜあのような行動を……?」
「ちょっとしたお遊びでやんす」
ピロシキが答える。
「遊びって……?」
紅鮭が少し驚く。
「すまない。
こんな調子でコイツ就職してもすぐクビになるそうでの。
友人に頼まれてアンゲロスに雇ってやるように頼まれたのじゃが」
「あっしは、自分より能力が低い人のところでは働きたくないのでやんす」
「あははは。
面白いことをいうわね。
ここにいる一花もジョーカーもあなたより強いわよ?」
プレゲトンが笑う。
「そうでやんすね。
でも、あっしが操れば――」
ピロシキが、そこ前言いかけたとき。
背筋が凍る。
「だったら殺せばいい」
その言葉に恐怖におののく。
「あ、亜金くん?」
ボクは、驚く。
亜金のその声の色は、今まで聞いたどの言葉よりも。
残酷で冷たかった。