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第5話

「……おんのれがぁぁぁ!」
地の底からわいてきたようなうめき声とともに、
––––バキバキバキッ!
倒壊した露店の、屋根であったろう畳一枚ほどの板を、片手で天に押しあげながら、(きん)瓦礫(がれき)の下から姿を現わす。

洋服はところどころ破け、顔には白粉(おしろい)(べに)がはねて歌舞伎の「くまどり」のように彩色。
双瞳()には怒りの炎がたぎっていた。

「……いきなり、ですか! いきなり……殴ったね!」
言うなり、手にしていた板を栄子(えいこ)に向かって投げつける。
錦もまた、その細い腕のどこにそのような力があるのかと思えるほどの剛力を発揮したので、板は巨大な手裏剣ように高速回転して、宙を切り裂き飛ぶ。

「手合わせに来たんだろ、甘いよあんた!」
せまる回転板を、栄子は目にも止まらぬ所作(うごき)で手にする槍を振り上げ、振り下ろし、両断する。
––––と、
––––ブォォォォーン!
うなりをあげて柱だったものらしき角材が、間髪入れず栄子の顔に目掛け飛んできた。無論、錦がすきをついてすかさず投げつけたものである。

「……フッ」
微笑を浮かべて栄子は首を小さく(かし)ぐ。そのすぐ横を風をはらんで、角材が飛び抜けていく。
「お、おい、大丈夫か⁉ って……フガッ!」
ゴンッ、と肉と骨を打つ音が鳴る。錦を心配して「いろは」から飛び出してきた美妙(びみょう)の頭に、栄子にかわされた角材がぶち当たり、のけぞり、そのまま大の字になって昏倒(こんとう)した。

「……ありゃゃ」
振り向いて、口から泡を吹いて気絶している美妙を見ながら、栄子は眼鏡のブリッジを人差し指で押しあげ、ズレをなおす。
「よそ見しない!」
栄子の頭の上––––空から、朱色の棒––––二丈余の槍を振り下ろして、錦は栄子に迫る。
「ははぁん、ちゃんと見えてるよ」
栄子は両手で柄をにぎり、槍を横たえて錦の打撃を防ごうとする。
「「おらぁぁぁぁぁぁ!」」
上空から全体重を乗せて繰り出した錦の槍と、両手突っぱり両足踏んばって横に構えた栄子の槍が激突する。

––––ガガガガガッ!
「いっけぇぇぇ!」
錦は両手に渾身(こんしん)の力を込める。
「まだまだっ!」
栄子は叫ぶ。
が、その身体は衝撃に押され、背中から地面に叩きつけられる––––その、まさに一瞬の半分、栄子は編みあげブーツを履いた右足を振りあげ、ひねりを加えた靴先を錦のこめかみに叩き込んだ。
––––ゴッッツ!
「……ッツ!」
したたか頭を蹴られ錦は地面に転がる。
「はぐっ!」
背中から大地に叩きつけられた栄子は、息がつまってうめく。
––––相打ちである。

しかし、
次の瞬間には、錦と栄子ふたり跳ね起き、槍を振るう。
––––ガシュッ!ガシュッ!
ふたたびふたつの槍がぶつかり合った。

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