第4話
知的な容姿ながら、愛想と愛嬌があるので客受けよく、彼女と話をしたいがためにわざわざ遠くから訪れる者も多く、政府高官にも栄子の
店主で看板娘の栄子は、
続いて、
「……へぇ、なるほど」
いままで気がつかなかった、と言わんばかりに彼女が左手に握る
「
店の中に差し込んできた西陽にメガネが反射。白く光って、栄子の表情はわからない。
––––ただ、さきほどまでの
「あれをこれに!」
いきなり叫ぶ。
「「へいッ!」」
ふたりの男性従業員が同時に声を上げるなり、店の奥へと走る。
栄子はふところから白く長い布––––「たすき」を取り出すや、手早く
「……え?」
栄子の豹変と動きに
ほどなく、奥に消えた店員が何かを持って戻ってきた。二人がかりで抱えてきたのは、二丈(6メートル)ほどもある、笹の葉のような形の穂がついた
「
栄子より明らかに年長の男ふたりは叫ぶや、彼女へとその槍を放り投げた。
栄子は槍の柄を掴む––––片手で。
––––そして、その細い右手一本で、頭の上でひと回し。
––––ブォォォォォォン!
さらに勢いを増し、ふた回し、み回し。
––––ブォォォォォォン! ブォォォォォォン!
五、六度まわしてかなり加速した状態で、
「たぁっらぁぁぁぁぁ!」
栄子はいきなり、そのしなり、
––––パンッ!
繰り出された柄の速度が速すぎ、肉を打つ音が驚くほど小さく、そして乾いて聞こえた。
「うぐっ!」
が、その威力凄まじく、
目を丸くし、あごをはずれんばかりに口を開いている
––––ドォォォォンッ!
仲道通りをはさんだ店の向かいの口紅や
店先で客と談笑していた露店のあるじは何があったのかと、のぞき込む。
––––と、そこへ、
「うっしゃぁぁぁ!」
空高くから、槍振りあげた少女が降ってくる。
––––栄子だ。
錦をぶっ叩いた後、すぐに駆け出し、店を出るなり穂先を地面に突き立て、柄を弓なりにしならせるやその反動で天へと舞いあがる。
そして、落下する勢いを乗せ、槍を露店の屋根に叩きつけた。
––––バキバキバキバキッ!
倒壊したおのれの店を見てあるじが絶叫。
ゆらりと起きあがる栄子。
「な、な、な、何しゃがるっ!」
熊か
メガネを光らせた栄子は、無言であるじの胸を手のひらで押した。
「えっ!?」
白く細い腕から放たれた力なのに、受けた衝撃大きく、あるじはよろめき後ずさり、きつねにつままれたような表情のまま尻もちをつく。
––––と、
––––ビュュュンッ!
一瞬前まで彼の頭があった場所の空気を、何が切り裂く。
それは、細い穂先がついた、血で染めあげたような朱色の柄を持つ槍であった。