第10話
「なかなか効くじゃない、これ」
青年医師は手にした注射器を押して、ピュッ、ピュッと薬液を出す。
「……う、うーん」
「おや、眠り姫がお目覚めかな」
さきほどより、さらに意識が戻りはじめた少女のそばにかがみ込む。患者の不安を取り除く、柔和な表情は医者のそれ、であった。
––––が、白衣の左すそがめくれている。そこから、日本刀の
医師なのに
「……ここは?」
少女は意識を取り戻した。
つぶやきつつ、その端正な
「やぁ、夏ちゃん」
「……森先生?」
夏––––
青年医師––––
夏の肩にポンと手を置き、彼女の後ろに回った林太郎は––––手にしたハンカチで素早く夏の口と鼻をふさいだ。
「……ふぐぐぐっ」
安堵から驚愕へと表情を変えた途端、ふたたび夏は気を失い、その場に崩れる。
「こっちも
林太郎はクロロホルムを染みこませたハンカチをポケットに入れて立ち上がり、神経質そうに白衣の襟を整えた。
「おりゃゃゃぁ!」
ふた振りの刀を握りしめたマムシは
「おらおらおらおらぁぁぁ!」
襲い来る小鬼たちを斬り、突き、
「ギャギャギャギャギャ!」
小鬼の首が飛び、腕がもげ、足が転がり、腹が裂ける。
およそ生物の根幹原理を超越した現象ではあるが、致命傷を負った小鬼たちは断末魔とともにその身を石化させ、すぐに砂化––––そして、大地に
マムシが右に左に白刃を
「おいこら! なんで夏をまた寝かせてんだよ!」
両腕で斬り伏せ、つかみかかろとしてくる小鬼を足で蹴り飛ばしつつ、首だけ後ろにねじ曲げて、マムシは林太郎を怒鳴る。
「うら若き乙女にはかわいそうじゃないですか、こんなバケモノだらけの光景を見せるの」
「ばっきゃろう! おれのほうがかわいそうだわ!」
そう返すマムシだが、まったく同情を誘うようなそぶりを見せない。
そのふたつの
「まったくキリがない……林太郎、はやく手伝え!」
「いやぁ〜、僕もほんと、そちらに加勢したいのですがね……」
荒ぶるマムシに対し、
まったくしまりのない表情をしているが、いまや彼はひとならぬ者の殺意に取り囲まれていた。
「グルルルルルッ!」
狼であった––––二本足で立ち、手に手に刀や槍を持った、人狼たち。
鋭くとがった
「あぁ、そうか今夜は満月だったっけ」
林太郎はなんの緊迫感も抱いてないかのように、ゆっくり空に浮かぶ