33
「ボク!ボクは幾つなの?」
ピノが、ボクに抱きつく。
「え?」
ボクが驚く。
「何歳?」
ピノの目がまっすぐとボクを見つめている。
「16歳かな。多分」
「ピノと一緒だね!
ピノのこと好きになっていいよ?」
「えっと」
ボクは戸惑う。
積極的な女性はボクは知っていた。
だけど自分に積極的な女性はいなかった。
そのため、どういう風に接していいかわからない。
だから戸惑う。
「おう!ボク愛されてるじゃねぇか!」
灰児が嬉しそうに笑う。
「愛……?」
ボクは、愛を知らない。
愛って何かわからない。
「ん?」
灰児が不思議そうな顔をしている。
「愛したらどうなるんですか?」
「愛を知ったら世界が変わるぞ?」
灰児が優しく微笑む。
「変わる……んですか?」
「うん、変わるよ」
新一が答える。
「どんな風に?」
ボクの声が低い。
「優しくなれる」
裕也がそういうとボクの頭のなかに疑問が残る。
「そんなの嘘だ……
ボクより愛を知っている人たちは優しくなかった」
ボクの心の声が言葉になりピノたちの耳に届く。
「ボクに優しくすればピノのこと愛してくれる?」
ピノが尋ねる。
「わかんない。
だって僕は愛を知らないから……」
ピノはボクの身体をぎゅっと抱きしめる。
「暖かい?」
「え?ああ、うん。
今日は寒いからね。
ピノさんの身体は暖かいよ」
「暖かいは愛だよ」
ピノが嬉しそうに笑う。
「え?」
しかし、ボクにはわからない。
「ピノも暖かい。
ボクも暖かい。
世界がこの暖かいに包まれたら戦争はなくなるんだよ?」
ピノが嬉しそうに笑う。
「戦争か……
なくなるといいね」
ボクの声が消え入りそうだ。
悲しくないのに涙が出そうになる。
泣いても世界は変わらない。
だから、泣かない。
すると灰児がベースを召喚する。
そして奏でる。
「なにを唐突に……?」
新一がそういうと灰児が笑う。
「俺らは何者だ?」
「何者って言われると勇者だね」
新一がそう答える。
「違う!俺らはですますスイッチ!
ミュージシャンだろ?
コイツの心に響くメロディを奏でるんだ」
それを聞いた裕也が笑う。
そして、ギターを召喚する。
「そうだね、ボクくんの心を溶かしちゃおう」
裕也がそういうと新一がうなずく。
「奏でよう。
このメロディを」
新一は、バイオリンを召喚し奏でる。
「よーし!じゃ、ピノは歌う!
ボクも歌おう!!」
「……でも、ボクはその歌を知らない」
「いいの!歌詞は心から湧き出るものだから!
きっと湧き出るよ」
ピノが歌う。
聞いたことのない歌を……
ボクはぎこちなくピノの後を追うように歌を歌う。
なにを言っているかはわからない。
だけど、心から声が湧き出る気がした。
観客なんていない部屋。
そこでボクは歌う。
誰に送るでもない歌を。