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「女?」
ピノが首を傾げる。
「ピノ、お前も女だ」
「灰児ロリコン?」
ピノがボクの後ろに隠れる。
「違うな……
俺はボインな姉ちゃんが好きだ」
灰児が、そういって笑う。
ピノが自分の胸に手を当てる。
「ボク、ピノはボインになれるかな?」
「え?」
ボクは返答に困る。
「ボクもボインが好きなの?」
「わかんない」
「そっか」
ピノがうつむく。
「女は胸じゃないぜ?」
灰児が笑う。
「え?」
「女は、愛嬌と度胸で魅力がどかーんとあがるってな!」
灰児がそういうと新一がうなずく。
「そうだね。
胸で好き嫌いを決めるのは、ボクくんじゃないよ。
大丈夫、ボクくんを狙うチャンスはピノちゃんにもあるよ!」
「そうそう、好きになることを禁止するやつはいねぇ!」
灰児が、そういってボクの頭を撫でた。
ボクは思った。
この人は、ジルたちと違う。
雰囲気は似ている、でも……
敵意はない。
そう思った。
でも、心の隅にあるのは恐怖心。
思い出すのは絶望。
「おい、ボク」
ジルが、ボクの背中を押す。
それは、前世の記憶。
いつものように殴られボコボコにされたボク。
目の前に見知らぬ女の子が立たされている。
この子もジルたちに目をつけられている女の子なのだろうか?
女の子がいじめられているのは、なんとなくわかった。
その子の足が震えている。
「やめてあげて」
女の子が震えながら涙をこぼしながら、そういった。
「ああん?なんで俺がお前の命令を聞かないとダメなんだ?」
ジルが、そういって女の子に向かって壁ドンをした。
全然、ロマンチックじゃない壁ドン。
恐怖しか感じない壁ドン。
「なんでもするから許して」
女の子が震える。
「なんでも?」
ジルが笑う。
「うん」
「じゃ、服を脱げ」
ジルがそういうと女の子の震えが止まる。
「え?」
「なんでもするんだろ?
服を脱いで俺を満足させてみせろ」
ジルがそういって女の子の服に手を当てる。
そして、ボクは生まれてはじめてジルに逆らった。
ジルの身体に体当たりをし叫んだ。
「逃げて!」
ボクは、その女の子に向かっていった。
「え?」
「早く!」
ボクは、ジルの身体を押さえた。
自分でもそんなに力があるとは思っていなかった。
しかし、押さえつけた力を弾かれるのは一瞬だった。
その一瞬の隙きに女の子は逃げることが出来た。
「お前……」
ジルがボクを睨みつける。
そして、何度も蹴った。
しかし、ボクは耐えた。
自分がこんなことにあっているのに少しだけ安心感があった。
あの女の子が救えた。
それだけで満足だった。