30
世界がおわる。
世界がはじまる。
少女がひとり大地に立つ。
そして、小さくつぶやく。
「ゆっくりとゆっくりとおわりのせかいがはじまるよ」
そして、涙を流す。
「ねぇ、あとなんど死ねばいいの?
あとなんかい痛い痛いしないといけないの?」
そして、魔物に首をはねられる。
しかし、少女は死なない。
だけど、少女は死ねない。
はねられた少女の首が消えると首から上が戻る。
「痛い痛い。
誰か助けて……」
少女は涙を流す。
涙を流し魔物に問う。
「どうしてこんなことするの?」
魔物は答えない。
ときには少女の身体を貪り食い。
ときには少女の身体を煮えたぎり。
少女の心は、崩壊寸前だった。
少女が願うは苦しみからの脱出。
自分を殺せる存在がいることを少女は知っている。
そのモノの名前は、ボク。
無限に経験値を与える存在。
誰よりも弱い存在。
誰よりも優しい存在。
「ねぇ、ボク。
早くピノを殺しに来て」
少女の名前は、ピノ。
魔物が問う。
「ようやく話す気になったか?」
魔物がそういって笑う。
「話さない。
だって話せばボクを傷つけるんだよね?」
「ああ、恐らくボクの方が経験値は美味いからな。
ピノ、お前とボクの両方を手に入れたとき。
我はモトフミさまの力になれるだろう」
魔物がそういって人の顔を出す。
魔物は人面獣。
人の顔を持ち知能と知識を持った犬だ。
「アースペルガ。
私は貴方を許せな――」
ピノがそこまで言ったとき。
人面獣が叫ぶ。
「黙れ!不死の力があるとは言え自惚れるなよピノ!
お前が犬であり我が飼い主。
飼い主を呼び捨てにする犬はいないだろう?」
魔物の名前は、アースペルガ。
最初はただの犬だった。
テオスの最高幹部、モトフミの気まぐれで知識と力を与えられ最高の力を持った犬だ。
ピノが、ボクの名前を呼ぶ。
「……ボク。
早く助けてよ」
すると突然見知らぬ男がピノの目の前に現れる。
「ボクくんじゃないけど助けに来たよ」
自信なさそうにそういった。
「殺してくれるの?」
すると男が笑う。
「あー、僕は殺すより飛ばす専門なんだ」
「飛ばす?」
ピノが首を傾げる。
「そう、例えば……君の痛みとか?」
男は、そういってピノの肩に手を当てて首をトントンと人差し指で叩いた。
「痛み?」
「痛いの痛いの……」
するとピノの身体中にあった痛みが消える。
そして男の手が光る。
「飛んでいけ!」
男がそういったときアースペルガの身体中に痛みが走る。
「ぐ……?」
アースペルガにはなにが起きたか理解できない。
「わかったかい?
これが彼女の痛みだよ」
「貴様!何者だ?」
アースペルガが男を睨む。
「僕かい?僕の名前は木村裕也。
ちょっと怪しいまじない師さ」
「その名前は聞いたことあるぞ!
何度もモトフミさまを殺そうとしているヤツがいると……
その名前が確か――」
アースペルガがそこまで言いかけたとき裕也はピノの頭を撫でて優しく言った。
「ピノちゃん、僕と一緒に来ないかい?」
「どこ……へ?」
ピノの心には不安しかない。
今まで自分をひどい目に合わせてきた存在はアースペルガだけじゃない。
前の主も、その前の主も。
ピノを傷つけ苦しめた。
「そうだね。
そこにはボクくんも来る予定だよ?」
裕也の言葉にピノの表情が少し明るくなる。
「ボク、ピノを殺してくれるかな?」
その言葉に裕也が言う。
「殺さないよ。
そこにいるのは、君を護る人たちばかりだよ」
「ピノを護る?」
「そう」
「護るってなに?
痛い?」
「痛くないよ。
痛いことをしないところに行くんだ」
裕也の言葉をピノは信じることにした。
「ホントに?ホント?」
「うん、さぁ。
行こう、あんな犬の場所にいたらダメだ」
裕也は小さく笑うとピノの頭を撫でた。
「主は、我を犬と呼ぶか?
我の逆鱗に触れた罪……万死に値する!」
しかし、アースペルガがそう言い切るまでの間に裕也とピノの姿は消えた。
「消えただと……
木村裕也……!?名前と顔をしかと覚えたぞ!
お前は我が必ず殺してやる!」
アースペルガは、そういって遠吠えで叫んだ。