バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

29

「では、ボクくん。
 君は、僕と一緒に来てもらうよ」

 新一がそういってボクの方を見た。

「でも、仲間が街にいるんです」

「そうなのかい?
 君に仲間が……」

 新一は少し考える。

「様子を見に行ったらダメでしょうか?」

「見てどうするんだい?」

「なにもできません……
 でも……」

 ボクはなにも言えない。
 自分が彼らの足手まといになるは、わかっている。
 でも、前世から初めて出来た友達以上家族以上の存在が出来た。
 だからせめてひと目だけでも……
 そう思った。

「遠くで見るだけだよ?
 今の君は危険なんだ。
 殺しても死なない、攻撃を続ける限り永遠に経験値を与え続ける存在だ。
 わかりやすく例えるなら、君にある程度ダメージを与えるだけで、たとえ子犬でも、下級クラスの魔王なら軽く超えるだけの力を得るんだ。
 それがどれだけ恐ろしいことかわかるだろう」

「はい」

「だから少しだけ見るだけだよ?」

「ありがとうございます」

 ボクは軽く頭をさげてお礼を言った。
 もう仲間たちに会えないかもしれない。
 その覚悟をした。

「じゃ、行こうか……
 詩空孤児院だよね?」

「はい」

「この森だった場所を抜ければすぐそこに君の仲間がいるはずだ。
 この魔力は、銀弾の座来栖のモノだ」

「座来栖さんのこと知っているんですか?」

「ああ、バンパイアハンターの銀弾の座来栖といえば有名だからね」

「すごく強い人なんです」

「知っているよ。
 彼はバンパイアハンター一族の王子だよ」

「え?バンパイアハンターってバンパイアを狩る人のことじゃないんですか?」

「はは、勘違いしている人もいるけど彼はバンパイアのハンターで、バンパイアハンターなんだよ。
 彼はバンパイアの王だからバンパイアに対しては絶大なダメージを与えれる力を持っているんだ」

「そうなのですか……
 凄いな」

「ああ、でも。
 これから君は、彼を超えるだけの力を得てもらう」

「力を……?」

「そうだよ。
 本来なら白銀さんが、その役目を務めるはずだったんだけど。
 彼はあんなことになってしまったから」

「白銀先生は」

「死ぬ?君は知らないのかい?
 白銀さんは、テオスと内通しファルシオンを襲撃しこの火の海を作ったんだ」

「え?」

 ボクは、驚く。

「なにを驚く必要がある?
 この火の海は、白銀さんが作ったものだろう?」

「カリュドーンさんじゃないんですか?」

「カリュドーン?」

 新一は、少し考え答えを見つける。
 そして、驚き言葉を放つ。

「もしかして、カリュドーンの猪のことかい?」

「猪かどうかはわかりませんが……
 その人は、カリュドーンと名乗っていました」

 ボクは、カリュドーンの出会いと会話を新一に話した。

「そうか。
 カリュドーンの猪なら、無限に湧く貴方のシールドを破壊することも可能……だな」

「有名なのですか?」

「数々の英雄たちを一度に倒せるくらい凄い存在だよ
 実際にカリュドーンの猪の実力は神や魔王クラスだろう」

「強いんですね」

「ああ、一応倒したって言われているが。
 実際のところは、力を押さえつけることで精一杯で、何億もの呪縛で封印していただけだ」

「でも、そのカリュドーンさんはどうしてここに?」

「それはわからない。
 だが、ボクくんにダメージを与えたという事実が本当なら少々ややこしいことになる」

「どういうことです?」

「先程も言ったように君は、攻撃を加えた相手に経験値を与える能力を持っている。
 それも普通の人の数百億倍以上のね……
 子犬が下級魔王クラスの強さを誇れるようになるってことは、魔王クラスの存在が君にダメージを加えるってことはどういうことかわかるだろう?」

「さらに強くなるってことですか?」

「そういうことだ。
 レベルが1上がるだけで強くなる素質というものが、カリュドーンの猪の場合2000もある。
 カリュドーンの猪のレベルは、200だったと言われている。
 素質が高ければ高いほどレベルが、あがりにくいのだがそのかわりにレベルが上ったとき強くなれる。
 そのカリュドーンのレベルをさらにあげたってことになるんだ。
 しかも、君に大ダメージを与えたのだからその量は凄まじいだろう」

「そ、そうですか。
 数学は苦手です」

 ボクは、ため息混じりにそういうと新一が答える。

「うーん。
 そうだな。
 君と出会う前のカリュドーンの猪の総合値は、400000。
 君にダメージを与えたカリュドーンの猪の力は、それの10000倍――」

 新一は、そこまでいいかけて言葉をやめた。
 ボクが混乱しているからだ。

「えっと400000の10000倍だから……」

「とっても強いってことさ……」

 新一は、苦笑いを浮かべてそういった。

「さて、そろそろ詩空孤児院があった場所に着くよ」

 新一が、そういって指差す方向にはブーと歩、座来栖と13がいた。

 13の声が聞える。

「今は、怪我人をひとりでも死人に変えないように努力しよう」

「そうだね。
 それがいいんだな、ひぃふぅ」

 ブーがそう返事をしている。

「ああ。
 みんな無事だったのかな……
 よかった、本当によかった」

 ボクが涙をこぼす。

「さ、ボクくん。
 君は、強くなるんだ……
 僕よりもさらに強くね……」

「はい」

 ボクはなにかを決意した。

「では、行こうか」

「はい」

 新一の言葉にボクはうなずき一歩前へと進む。
 その先になにがあるかはわからない。

 地獄しかないかもしれない。
 それでも仲間と一緒に歩ける場所があると信じて歩み始めた。

しおり