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「では、ボクくん。
君は、僕と一緒に来てもらうよ」
新一がそういってボクの方を見た。
「でも、仲間が街にいるんです」
「そうなのかい?
君に仲間が……」
新一は少し考える。
「様子を見に行ったらダメでしょうか?」
「見てどうするんだい?」
「なにもできません……
でも……」
ボクはなにも言えない。
自分が彼らの足手まといになるは、わかっている。
でも、前世から初めて出来た友達以上家族以上の存在が出来た。
だからせめてひと目だけでも……
そう思った。
「遠くで見るだけだよ?
今の君は危険なんだ。
殺しても死なない、攻撃を続ける限り永遠に経験値を与え続ける存在だ。
わかりやすく例えるなら、君にある程度ダメージを与えるだけで、たとえ子犬でも、下級クラスの魔王なら軽く超えるだけの力を得るんだ。
それがどれだけ恐ろしいことかわかるだろう」
「はい」
「だから少しだけ見るだけだよ?」
「ありがとうございます」
ボクは軽く頭をさげてお礼を言った。
もう仲間たちに会えないかもしれない。
その覚悟をした。
「じゃ、行こうか……
詩空孤児院だよね?」
「はい」
「この森だった場所を抜ければすぐそこに君の仲間がいるはずだ。
この魔力は、銀弾の座来栖のモノだ」
「座来栖さんのこと知っているんですか?」
「ああ、バンパイアハンターの銀弾の座来栖といえば有名だからね」
「すごく強い人なんです」
「知っているよ。
彼はバンパイアハンター一族の王子だよ」
「え?バンパイアハンターってバンパイアを狩る人のことじゃないんですか?」
「はは、勘違いしている人もいるけど彼はバンパイアのハンターで、バンパイアハンターなんだよ。
彼はバンパイアの王だからバンパイアに対しては絶大なダメージを与えれる力を持っているんだ」
「そうなのですか……
凄いな」
「ああ、でも。
これから君は、彼を超えるだけの力を得てもらう」
「力を……?」
「そうだよ。
本来なら白銀さんが、その役目を務めるはずだったんだけど。
彼はあんなことになってしまったから」
「白銀先生は」
「死ぬ?君は知らないのかい?
白銀さんは、テオスと内通しファルシオンを襲撃しこの火の海を作ったんだ」
「え?」
ボクは、驚く。
「なにを驚く必要がある?
この火の海は、白銀さんが作ったものだろう?」
「カリュドーンさんじゃないんですか?」
「カリュドーン?」
新一は、少し考え答えを見つける。
そして、驚き言葉を放つ。
「もしかして、カリュドーンの猪のことかい?」
「猪かどうかはわかりませんが……
その人は、カリュドーンと名乗っていました」
ボクは、カリュドーンの出会いと会話を新一に話した。
「そうか。
カリュドーンの猪なら、無限に湧く貴方のシールドを破壊することも可能……だな」
「有名なのですか?」
「数々の英雄たちを一度に倒せるくらい凄い存在だよ
実際にカリュドーンの猪の実力は神や魔王クラスだろう」
「強いんですね」
「ああ、一応倒したって言われているが。
実際のところは、力を押さえつけることで精一杯で、何億もの呪縛で封印していただけだ」
「でも、そのカリュドーンさんはどうしてここに?」
「それはわからない。
だが、ボクくんにダメージを与えたという事実が本当なら少々ややこしいことになる」
「どういうことです?」
「先程も言ったように君は、攻撃を加えた相手に経験値を与える能力を持っている。
それも普通の人の数百億倍以上のね……
子犬が下級魔王クラスの強さを誇れるようになるってことは、魔王クラスの存在が君にダメージを加えるってことはどういうことかわかるだろう?」
「さらに強くなるってことですか?」
「そういうことだ。
レベルが1上がるだけで強くなる素質というものが、カリュドーンの猪の場合2000もある。
カリュドーンの猪のレベルは、200だったと言われている。
素質が高ければ高いほどレベルが、あがりにくいのだがそのかわりにレベルが上ったとき強くなれる。
そのカリュドーンのレベルをさらにあげたってことになるんだ。
しかも、君に大ダメージを与えたのだからその量は凄まじいだろう」
「そ、そうですか。
数学は苦手です」
ボクは、ため息混じりにそういうと新一が答える。
「うーん。
そうだな。
君と出会う前のカリュドーンの猪の総合値は、400000。
君にダメージを与えたカリュドーンの猪の力は、それの10000倍――」
新一は、そこまでいいかけて言葉をやめた。
ボクが混乱しているからだ。
「えっと400000の10000倍だから……」
「とっても強いってことさ……」
新一は、苦笑いを浮かべてそういった。
「さて、そろそろ詩空孤児院があった場所に着くよ」
新一が、そういって指差す方向にはブーと歩、座来栖と13がいた。
13の声が聞える。
「今は、怪我人をひとりでも死人に変えないように努力しよう」
「そうだね。
それがいいんだな、ひぃふぅ」
ブーがそう返事をしている。
「ああ。
みんな無事だったのかな……
よかった、本当によかった」
ボクが涙をこぼす。
「さ、ボクくん。
君は、強くなるんだ……
僕よりもさらに強くね……」
「はい」
ボクはなにかを決意した。
「では、行こうか」
「はい」
新一の言葉にボクはうなずき一歩前へと進む。
その先になにがあるかはわからない。
地獄しかないかもしれない。
それでも仲間と一緒に歩ける場所があると信じて歩み始めた。