第8話
「……誰だい……坊さん?」
重たいまぶたをこじ開け、金之助は文字通り「
つるりとした
「……ぐごぉぉぉ!」
金之助は僧衣の男の胸に寄りかかると、「寝息をたてる」を一足飛びに「高いびきをかく」。
「おい、こら、よだれをたらすな!」
男は金之助の頭を鷲づかみにして引きはがす。
「……ふぐぉぉぉぉぉぉ!」
頭がぐるんと後ろにそれるが、一向に起きる気配はない。
「重いっ! 重いっ!」
「ったく、子守りの数が増えてるんじゃないか!」
激しく舌を打ち鳴らし、金之助をゆっくり地面に横たえる。
「なんだい、なんだい、
金之助が取り落とした長刀の方を拾いあげ、振る。
––––リリーン、リリーンと割かれた
男は短く口笛を吹き、
「さすが
浮かれ調子の声をあげた。指ではなく、心が震えたのだ。
刀––––鬼丸国綱を
……と、
––––キィーン、キィーン!
金属音が静かに、だがたしかに、低く高く響く。
「なかなか
鳴いているのは、男が手にしている鬼丸ではなく、金之助が放り出したもう一本の刀––––脇差の方。
「ニッカリも小僧より、このマムシの周六さまのようなジェントルマンに抱かれたいよな。わかる!」
自分のことを「マムシの周六」とやくざ者のように呼び、僧侶の
「ギャギャギャギャギャギャ!」
不快極まる甲高い声をあげながら、さきほど尻に帆をがけ森の中に遁走した小鬼が戻ってきていた。
「あん? なんだコラ、
小鬼が丸腰なのを見て、マムシは鼻を鳴らし、
「だったら土下座してもらいましょうか、あぁん? 土下座わかる? ど・げ・ざ」
どう喝する。
だが、対峙した小鬼はおびえの色など微塵も見せず、
「ギャッギャッギャッ!」
腰に手をあて、胸を反らしてせせら笑った。
震え上がっていたさきほどとは違い、
「こっぱっ、ぶった斬る!」
マムシはふた振りの刀––––鬼丸国綱とニッカリ青江を胸の前で交差させ、勢いよく外へと振りぬく。
刃鳴りが夜気を裂いた。
「……ギギッ」
怒りで膨れ上がったマムシの
それが合図だった。
森の中から、林の中から、藪の中から、小鬼たちが飛び出してきた。
手に手に、刀や槍などの得物を握り、雄叫びあげて現れる。
「ザコがどれほど集まろうが、どう……と……いう……ことも」
語尾がつまった。
彼に殺到する小鬼の数が、十、二十、三十、五十……ついには百をゆうに超えていたからだ。
「おいおい、これ多すぎだろ。勘弁してよ」
言葉とはうらはらに、その声には喜色がにじむ。
マムシは柄を握る両手に力を込め、そして、小鬼の群れにむかい駆け出す。