22
――ハレルヤ平原
曇天の空。
そこに立っているのは少年。
名前は、亜金。
周りには複数の盗賊たちが集まる。
「おい。
こんなところまで逃げてくるとはな。
街中にいれば誰かが助けてくれたかもしれないのにな!」
盗賊の頭がそういって笑う。
「助けてくれないよ。
だって彼らは僕には無関心だもの」
「まぁ、この場所だったら死体を埋めなくてもモンスターの餌になるだけだ!
死体を隠さなくてもいいから手が省けた」
「獣人の子を誘拐してどうするつもりだったの?」
亜金は、表情を変えることなく盗賊の頭に尋ねた。
「そんなん決まっているだろ?
売るんだよ。
猫耳コレクターさまは、猫耳の獣人を集めているんだ」
「それでその子はしあわせになるの?」
「さぁ?剥製になるんじゃないのか?
生きていれば成長するしな。
老いもする。猫耳コレクターさまはエルフでな長く愛でるには剥製がいいらしい」
「ゲスだね」
亜金は、小さな声でそういった。
「とりあえず猫耳コレクターさまは、お前を殺せと申している。
お前には悪いが、ここで死んでもらう。
俺たちは、美味しいご飯のメシ代になってもらう!」
盗賊たちは、ナイフを取り出すと一斉に亜金を襲いかかる。
ナイフが亜金に当たろうとした瞬間。
ナイフは盗賊たちの手元を離れ足元に突き刺さる。
「そのナイフは、僕に触れようとしたんだ。
当然だろう?」
「なんだ貴様は……
身体が動かねぇ。
これは、重力魔法か?」
盗賊の頭がそういうと亜金がうなずく。
「呪いだよ」
「呪い?」
「僕は感情を失い力を得た」
「咎人か?」
「デモニックっていうんだ。
咎人より強い呪いだよ」
「俺たちを殺すのか?」
盗賊の頭がそういうと亜金は静かに目を閉じる。
「ごめんね、僕も美味しいご飯が食べたいんだ」
「……くそが」
「ゲートホール」
亜金が手のひらを上に向けるとそこから黒い球体が現れる。
そして、その場にいた盗賊全員をその球体の中に閉じ込めた。
「……さて、次はこの盗賊のアジトにいって獣人の子を助けなくちゃ」
亜金は、そういって軽く地面を蹴る。
そして向かった先は盗賊のアジト。
しかし、そこには先客がいた。
倒れている無数の盗賊。
そして、その盗賊の相手をしている幼い子ども。
子ども相手に翻弄される盗賊たち。
「君は?」
男の子が亜金に尋ねる。
「僕の名前は亜金。
ここにさらわれた獣人を助けに来たんだ。
あとついでにお小遣い稼ぎ」
「そっか、僕の名前はトール。
ここの盗賊に村の人々が迷惑しているらしいから退治しにきたんだ」
トールはそういうと地面を蹴る。
そして襲いかかる盗賊たちをトールは指先から放出した細い糸で器用に縛っていく。
「凄い」
亜金は、思わず声を出す。
「後ろががら空きだぜ!」
盗賊が亜金の背後に周りナイフで切りつける。
「ん?」
亜金は、振り向くとそのまま左手に隠し持っていた球体の中にその盗賊を閉じ込めた。
「ゲートホールかい?
その魔法」
トールが、そういうと亜金はうなずく。
「そうだよ。
よくしっているね」
亜金がそういうとトールが笑う。
「僕も使えるよ」
トールはそういって手のひらを空に向ける。
すると空が唸る。
「これが、ゲートホール??」
亜金は、そういって空を見上げる。
「……な、なんだこれは?」
盗賊たちが逃げまとう。
しかし、盗賊たちはあっというまにホールの中に吸い込まれていった。
「はい、終わり。
早くこれを使っていればよかったよ」
トールがそういうと亜金の方を見た。
「君、凄いんだね」
亜金がそういうとトールが言った。
「獣人の子は多分、奥にいると思うよ」
「え?」
「助けに来たんでしょ?
行ってあげて」
「うん」
トールのその言葉を聞いたあと亜金は、その場から離れ奥の部屋に向かった。
奥の部屋には沢山の獣人がいた。
「あのー
皆さん、逃げてください」
亜金の言葉を聞いた獣人たちは一斉に逃げ出した。
そして、ひとりだけ残った獣人の女の子がいた。
女の子の名前は多摩月 玉藻(たまづき たまも)。
「……どうしたの?」
亜金が尋ねる。
「逃げる場所などない」
「え?」
「父上も母上もここの盗賊たちに殺された。
姉上もどこに行ったかわからない」
そして、玉藻は涙をボロボロと流した。
「里も全滅……
もう私の帰る場所なんて」
「そっか」
亜金は小さくうなずく。
「だったらパンドラの里に来ない?」
「え?」
亜金の言葉に玉藻が驚く。
「僕たちのような親のいない子がいっぱいいるところがあるんだ」
亜金は、後ろを振り向き大きな声で尋ねた。
「トールくんも来ない?」
トールが、影からゆっくりと姿を現す。
「僕が行ってもいいのかい?」
「いいと思うよ。
君のことは噂で聞いているよ。
トールくん、ギフテッドのトールくん」
亜金が、そういってトールの方を見た。
トールは静かにうなずいた。