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第4話

 
挿絵


「……いたたたたた」
空から降ってきた鎧武者をひとりで抱きかかえ、そのまま倒れて頭を強打。少しのあいだ意識が遠のいていた(のぼる)は、痛む後頭部を押さえながら、起きあがろうとした……が、動けない。

彼の身体の上に、くだんの武者が覆いかぶさっていたのだから。

鎧武者に声をかける。
「もしも〜し」

「……」
返事がない。

二の腕を掴んで、身体を揺すってみる。
気を失っているのか、やはり反応しない。

「よっこらせ!」
身体をひねり、武者を横へとずらす。
頭以外にもあちらこちら強打したらしく、ひどく痛んで升は顔をしかめた。

自由になった上半身を起こすと、武者を見る。
「こりゃまた大時代的な」
うつ伏せになったまま、いまだぴくりともしない武者。

その身をつつむ甲冑は江戸時代や戦国時代のそれではなく、升も書物の中でしか見たことのない、はるか昔、源平合戦の時のもののようであった。

「ちょっと、大丈夫?」
やはりは返事はない。升は武者を仰向けにしてみた。

「おりょ!」
声をあげて驚いた。

「くわがた虫」を思わせる飾りのついた兜の下は、髭もじゃのむさい(おとこ)とばかり思っていたのだが、そこにあったのは見目麗(みめうるわ)しい若者––––いや、少女の顔であった。

「……」
(つむ)った眼のまつげは長く、すうっと整った鼻梁(はな)、肌きめ細かく、苦しげにややゆがめた紅唇(くちびる)も形良く瑞々(みずみず)しい。

月光の下、さらに目を開けておらず、声も発していないのに、すでに息を呑むほどの(うるわ)しさ。

––––美少女。
そう言っても過言ではない容貌(かお)であった。

「……触っても、いいよな」
声をかけても揺すっても起きないのだ。これはもう、頬にふれるか、それでもだめなら叩いてみるしかない––––だがしかし、升は自分がひどく卑猥(ひわい)でいかがわし行為におよぼうとしているように思えた。

誰に問うとはなく、ひとりごちる。
「……別に接吻(せっぷん)して起こそうってわけではあるまいし」
たしか西洋の話にそんなのがあったよな、と、薄らぼんやり頭に浮かべては、独語は続く。

おのれの高鳴る心音に、微苦笑しながらも少女の頬へと手を伸ばした––––その時。

「ギャギャギャギャッ!」
人の声とも獣の鳴き声ともとれぬ音が耳に飛び込んできた。

「う、うわっ!」
驚いて手を引く。
それまで早鐘のようだった心臓に、ぶっとい「しゅもく」を力まかせに一発叩き込まれたようで息がつまった。

そして、異声のした方を見て、今度は声をつまらせる。
「……なんだ、あれ⁉」

毛の無い猿のような、裸の赤ん坊のような、だがそのどちらともほど遠い異形のものが、手に刃物らしきものを握り、四つん()いになった金之助の背に飛び乗っていた。

「ちくしょう!」
友は叫んでいた。

升は咄嗟(とっさ)に地面に転がる石をつかんで立ち上がる。

親指と人さし指、中指で石を握り、胸元に引き寄せ、左足をあげて、右足を軸に身体をひねり––––そして、姿勢をもどす際に生じる遠心力をのせて、石を放った。

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