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第5話

 
挿絵


「殺られる!」
金之助は次の瞬間に来るであろう「死の衝撃」に身を硬くする。

––––バコッ!
肉を打つ鈍い音がした。

次の瞬間、
「ピギャャャャ!」
小鬼の悲鳴があがる。

背中が軽くなった金之助は身を起こす。

足元で小鬼が後頭部を押さえてうめきながら、右に左にゴロゴロと転がっていた。しわだらけの醜悪な顔をさらにくしゃくしゃにしている。

苦悶の表情だと金之助は見てとる。

「……何があったんだ?」
と、振り返ると、
「われながら『ないすぴっちんぐ』だ」
(のぼる)が、右腕を曲げ、力こぶを出すポーズをとっていた。

彼の放った石が弾丸となって、あやまたず小鬼の後頭部を撃ったのだ。

死の恐怖から解放してくれたのが升と理解した金之助は、
「のぼさん、『さんくすゆー』だ」
友に英語で返す。

「早く刀を!」
升は、声を飛ばす。
小鬼が立ち上がったのだ。全身から憎悪の気をたぎらせ、手にする刀で何度も目の前の空をなぐ。

いまにも眼球が飛びだしそうな両目をさらに見ひらき、耳まで裂けている口から歯列をむき出し、憤怒(ふんど)の声を吐き出す。

「ギャギャギャギャァァァァァ!」

「やっばっ!」
弾かれるように走り出す金之助。大地に突き立つふた振りの刀を目指し、全力で駆ける。

「ウギギギギッ!」
息をするのを忘れ、全速力の金之助––––その背に向け、小鬼が跳躍した。

「ギェェェーー!」
枯れ枝のような脚のどこにそんな力があるのか、恐ろしほどの瞬発力を発揮し、刀を逆手にした小鬼が上空から迫る。

白刃が背に突き立つ––––まさにその一瞬前、ふた振りの刀の柄を握り、引き抜き、金之助は横っ飛びする。

「……ツ!」
迫り来る刃から逃れたものの、背中から激しく地面に落ちて息をつまらせた。
言葉にならない声だけがもれる。

「ムギギギギギッ!」
金之助の身体ではなく、空を斬った小鬼の刀が、勢いあまって大地をうがつ。

柄までめり込むほどの力––––もし、金之助の背を突いていたのであれば、間違いなく心臓をたやすく刺し貫いていたに違いない。

「ギッギッギッギッギー!」
いまいましげに小鬼は地面から刀を抜く。さらに猛々しさを増した怒りの炎を全身から噴出しさせ、金之助に飛びかからんとひざを曲げる。

「立て、はやく!」
升が叫ぶ。その悲痛を帯びた声に耳朶(じだ)を叩かれ、金之助は立ち上がる––––が、立ち上っただけ、であった。

手にした二刀を構えない。
だらりと腕を伸ばし、切っ先を地に向けている。うつむき、半眼になっていた。

「……かなりの年代もの」
ぼそりと言う。
明治の世になってすでに二十年。刀剣など必要とされない時代であり、金之助も子供の頃に触ったことが多少あったきりである。

そんな彼ですら手にしてすぐにわかるほど、柄の組み紐が変色して、くたりとした感触だった––––だが、()になじむ。
指が吸いつく。そして、溶け出して己と刀身が一体化していくような、高揚感、浮遊感……

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