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第3話

「う、うわわわわわァァァ!」
尻もちをついたまま、手と足をせわしなく動かし、後ずさる金之助。小鬼の刀は空を切り、それまで彼がいた場所の大地に突き立つ。

「ギャギャッ!」
舌打ちのような奇声をあげ、小鬼はギロリとにらむ。

「……次は、やられる!」
全身の毛穴から、冷たい汗が吹き出る。ごくり––––唾を強引に飲み込む。

「……どうする、どうする、どうする、どうする⁉」
口に出してし逡巡(しゅんじゅん)している金之助の耳に、

––––キィィィィィィィン!
高鳴る金属音が届く。

「……刀!」
金之助は駆け出す。

「あぁっ!」
––––が、数歩も踏み出さないうちに足をもつれさせて転倒。

胸の傷による貧血のせいか、異形の者に追われる恐怖で身体が硬くなったか、足が思うにまかせることができなかった。

「ギャッギャッギャッ!」
小鬼はぶさまな金之助を嘲弄(ちょうろう)するように、かん高い声をあげる。

手にする小刀を左右に振り、刃鳴りを立て、
(ほらほら、逃げろ逃げろ!)
そう、追い立てる。

「……く、くっそぉ」
犬のように四つんばいになって、金之助は草をつかみ、土を蹴り、懸命に前進する。
 
ふた振りの刀を握ったからといって、確実に小鬼を斬れるとは限らない……だが、手にしなければ間違いなく殺される。

乱れに乱れた息のまま、突き立つ刀まであと少し、手を伸ばせば届くところまで来た––––その時、

「キッキッキッキッ!」
背中に重みを感じた。耳のすぐ後ろから小鬼の勝ちほこった声がする。

「ちくしょう!」
金之助は激しく舌打ちする。

小鬼が背中に飛び乗ってきた。首すじを切られるか、背中から突き通されるか、間違いなく殺られる。

彼は観念して目を(つむ)る。

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