第四十三話
「え、衣好花様。乱暴はおよしになって。楡浬様がお困りでしたから、あなたをお諌めしただけですから。」
「許せぬ。こうするでござる!捕縛の字。」
衣好花は大悟にしがみついて、両手を背中に回して強く絞めた。
「ぐぐげげ。」
大悟は呼吸困難となり喘いでいる。
「ちょっと、オヨメ姉ちゃんに何するんだよ!殺す気満々だな?」
「宇佐鬼オヨメ殿。お慕いしたしまする。心酔の字。」
「「「はあ?」」」
衣好花以外の三人がサプライズハモった。
「どうやら拙者、忍者モードでは大悟殿、ドMモードでは楡浬殿に、恋慕の字。」
「「「そんなバカな!」」」
大悟家の玄関は叫び声でドアが大きく揺れて軋んだ。
『プチーン。』
この時、衣好花の頭の中で、何かが切れた。
「お、思い出したでござる。」
「衣好花さん、どうかしましたか。ハトが豆を食べるような仕草ですわ。」
「それでは1話で消えてしまうモブキャラになってしまうでござる。もっと大事な拙者のやるべきことでござる。」
「アイドルになるってことじゃなくて、ですの?」
「それは拙者の記憶を呼び戻すプロセスでござった。アイドルとは偶像崇拝。つまり、神でござる。拙者は神セブンでござった。長いこと人間界にいて、土井家にお世話になっていたでござった。過去をすっかり失念しておりました。忘却の字。」
「ちょっと、待ちなさいよ。泥ドロンジョが神セブンって、いったいどこの高速インターチェンジで間違えたら、そんな目的地に到着するのよ。」
「神見習いの楡浬殿。拙者にそのような口をきくのは138億年早いでござる。ええい。」
衣好花が十円玉を口にした瞬間、忍者の服の色が灰色から、赤、橙、黄、緑、青、青紫色、紫と変化し、再び灰色に戻った。
「その神痛力。文化系のものなの?」
「左様でござる。今はこれぐらいしかできませぬが、元は文化を取り纏めてござった。その記憶が蘇ったでござる。拙者の本名は、布袋でござる。これは子孫の字。」
衣好花が胸を指さした。そこには『布袋寅泰love』と書かれていた。
「ほ、本物っぽいわね。でもフードを取ると。」
「楡浬チャン、愛してるゥ。モードチェンジ、泥ドロンジョ。妖解の字~。」
ゲル状衣好花が楡浬をひたすら汚していた。大悟がフードを被せて、ようやくノーマル忍者モードに復帰した衣好花。