第三十三話
合宿当日。大悟、楡浬、衣好花の三人は山へ向かうバス停で待っていた。
いずれもメイド服を身に纏っている。大悟は赤、楡浬は白、衣好花は黄色の水玉といういつものシフトであるが、田舎へ向かうバス停に3人もメイドがいれば目立って仕方がない。
「何あれ?メイドが3人もいるわよ」「コスプレイヤーかな」「きっと、今からコスプレ大会があるのよ」「でも郊外に向かうバスに乗るらしいぜ」「ママ。あたしもメイドさんになりたい」「目を合わせちゃダメよ。きっと変な人たちなんだから」
バスターミナルにいる周りの人たちの反応は様々であったが、基本的には3人を避けていた。コスプレは、やるのも見るのも専用の会場で楽しむのが一番である。
「先生。日頃の訓練ではメイド服は慣れてきたんだけどォ、こんな人目が多いところでは超落ち着かないよォ。恥感の字~。」
衣好花は顔を赤くして、スカートの裾を押さえながら、焦点があまり合わないような様子で、左右をきょろきょろと見ている。
「衣好花様。貴方はアイドルを目指しているはずなのだから、好奇な視線や誹謗中傷的な目に対しても対抗できる精神力が必要なのです。ここでバスを待つこと自体も訓練の一環と考えてくださいな。大作戦2話までは完敗している楡浬様をご覧なさい。実に堂々たるものではありませんか。ぜひ手本にしてください。他には学ぶべき姿勢はありませんけど。」
「メイド服は神見習いであるアタシの正装なんだから当然よ。でもアグレッシブな悪意を感じるのは気のせいかしら。それは置いといて、今から行く山の名前が気になるんだけど。ひどく怪しいわ。」
「『遊霊山』という名前のことですの?いかにもパワースポット的で大変よろしいかと評価しておりますが。」
「真ん中にある文字にすごく不吉なイメージがあるんだけど。何か出るんじゃないかとか思わないのかしら。」
「楡浬様。まさかとは思いますが、二次元が三次元を人気の面で凌駕しようという科学文明先行の時代に、幽霊が出るのではないかという懸念をお持ちなのですか。」
「いつどこで、二次元が三次元を超越したっていうのよ。それはどうでもいいけど、出ないと思っていいのよね。いいのよね。いいのよね。だ、大事なことは三度サンドイッチするんだからねっ。」
「さあ、どうでしょうか。おいしい破夢(はむ)サンドが用意してあるかもしれませんわ。ふふふ。」
「その不気味そうなサンドイッチはごめんだわ。」
こうして、バスに乗り込んだ一行は4時間バスに揺られたが、楡浬はバスの振動とは無関係に震えていた。さらに次のバス停から2時間の徒歩を余儀なくされた。