第三十一話
「なんだ、てめらは。」
「その娘から手を放しなさい。彼女を折檻するのはオレの役目なんですから。」
「なんだ?わけがわからないが。いや、折檻という言葉からすると、もしかして同志じゃないのか。お前たちもこの女に何かやられたんじゃないのか。」
「たしかにそうですわ。でもあなたたちと同じような下品な行為をする計画はありませんわ。」
「言ってくれるじゃないか。よく見るとお前のオッパイはかわいがり甲斐がありそうだな。そっちを先にお楽しみ会をやるかな。」
「どこまでもゲスな殿方ですこと。いいでしょう。衣好花様。やってくださいな。コチョコチョ。」
「は~い。気合いスイッチをいれるよォ。すーっ。すーっ。すーっ。吸陰の字~。」
大悟のくすぐりを背中に受けた後、衣好花は大きく息を吸って、一気に吐いた。そして、あらゆる筋肉を弛緩させ、大地に座ってシナを作った。炎天下のアイスクリームのように、とろーりとろけた目。全身から溢れる脱力マイナスオーラ。
「なんだ、こいつは異様なからだと目つきしてやがる。」
「えすか、全身ドMアメーバーモードォ~。然陰の字~。」
衣好花はうつ伏せで大の字型で、からだがカレーのようにドロドロになっていく。
「不気味だあ!こんなの人間業じゃねえ~。」
「ねえ。あんたたち。えすかを打ってくんないィ?。超ぐちゃぐちゃで気持ちいいよォ。泥遊の字~。」
「ば、化け物だ~!」
モヒカン集団はぶつかったり、転がったりしながら、全員が立ち去った。
「た、た、助かったわ。いったい何が起こったのかしら。」
楡浬は事態がよく飲み込めず、呆然として周囲を見ている。その視界にふたりが入った。
「どうしてここに馬嫁下女と衣好花がいるのよ。アタシの見ている風景には邪魔イカ娘なのよ。」
「助けてもらってその言いぐさはありませんわ。楡浬様。衣好花様にお礼を言ってくださいまし。」
ついさっきまで大ピンチだった楡浬の気持ちを落ち着かせようとしているのか、大悟は優しく微笑みかけている。ゲル状態だった衣好花は人間型に復帰していた。
「楡浬チャン、ケガがないようで、よかったァ。超怖かったかなァ?恐蝕の字~?」
「こ、こわくなんかなかったわ。アタシの神痛力、『価値逆転』の前では、駄狼たちも遠吠えするに過ぎなかったわよ。」
「そうですの。その割には、下着の取り換えが必要なんじゃありませんか。これをお使いなさいませ。」
大悟は、純白で前部に赤い丸が描かれた日の丸パンツを楡浬に渡した。
「何よ。こんなダサいものいらないわよ。ぜんぜん必要ないんだからねっ。」
楡浬は近くにあった木の陰に隠れて、こそこそとした後、戻ってきた。
「さあ、楡浬様の下着が完全復活したところで、大作戦第3話といきましょう。」
「ちょっと、露骨に言わないでよ。は、恥ずかしいじゃない。」
「その恥、もっと大きくしてェ、えすかにぶっかけしてくんない?辱望の字~。」
「ばか。このどヘンタイ!泥女!」
「泥ドロンジョと言ってくんない?この方が実態に近い表現だよォ。近意の字~。」
「どこのダークアニメヒロインの名前をパクッてるのよ。でもそのネーミングはいいかも。しれないわね。」
「全然かわいくない名前ですわ。反対に一票入れますわ。」
「多数決は民主主義の大原則なんだから、大悟の究極的少数意見はあっさり却下されたわ。ふふん。」
こうして、厳正ならぬ審査を経て、衣好花の二つ名が決定された。