第二話
教室には人間の女子がごく普通に座っている。教師桃羅はいつものように出席を取り始める。
「それでは出席を取ります。1番から5番までの出席番号の生徒は来てるので、省略。仮に来てなくても省略。では大本命6番の宇佐鬼くん、いや宇佐鬼さん。来てるよね?って、さっき紹介したばかりだから当然だけど、これだけはやりたかったんだよね。」
ミニスカの教師桃羅は教壇に立つと、目からビームのような視線を最後尾席のオヨメ姉に送ったうえで、大きく足を開いた。
「神様牛生徒はいつもの通り、出席不自由だから、出席しなきゃいけないんだけど、数には入れないからね。だから、全員、サボリっと。」
「桃羅、いや先生、ちょっと神様牛に対して厳しくありませんこと?」
「いいんだよ。これが文部科学省制定要領通りなんだから、法律のどこにも触れないよ。法律の壁って、すごく分厚いから、拳銃、ライフルでも穴が開けられないし、ハンマーでも、根性でも、夜のおねいさんでも壊せないよ。」
「夜のおねいさん、最強!って、違いますわ!」
教室から見ると窓越に多数の人の姿が見える。全員が裾の短いメイド服を身に着けている。色は灰色を基調とし、いかにも安っぽい素材を使用しているのがわかるような非常に地味なものである。
「廊下にいる神様たち。授業はいつもの通り、自分の聴覚レベルを上げて聴いてね。神痛力を使えば、廊下で見聞きできるのかな?よくわからないけど、勝手にやって。でも教室には進入禁止だよ。人間だけの専用ETCだからね。」
こうして人間生徒のみの授業が空気を吸うように開始された。
廊下には手持ち無沙汰そうに神生徒がテキトーなポジションを取って並んで立っている。特にすごく手持ち無沙汰そうなのが福禄寿。ツンツン髪を頭頂部で一本に纏めて、斜めに寝かせている。それを触ったり、ぐるぐる回したりして何事かを考えている様子。
「あ~あ。おふくたちがやってる雑用の数、どれくらいあるのかなぁ?神はメイドで馬主人を待つだけの身で、人間は神頼みを全然しないしぃ。神痛力があって、神は全知全能に近いのに、どうしてお願いしないのか不思議だねぇ。神様って、様付けで呼ばれることもあるのに、神の存在と現実の扱われ方に違和感あり過ぎで、これじゃあ、一般人の前に現れた伝説のコスプレイヤーだよ。」
「おふくちゃん。コスプレイヤーはアニメ知らない人にはゾンビにしか見えないどす。」
「ダイコクちゃん、マイノリティ環境に優しいトークしてよぉ。」
福禄寿の左横に立っていた大柄な大黒天。その短い灰色のスカートに、気まぐれな風が裾にイタズラして、純白のパンツが外界に恥じらいのポーズ。
「きゃあああ。おふくちゃん、見るんじゃないどす!」
動く物体には視線が反応するという、生物全般に渡る本能が発揮され、福禄寿のつぶらな瞳にクッキリ投影された。間髪入れずに色めき立った福禄寿。
「げぼー!気色悪いぃ!」
いきなり床に特製お好み焼きネタを振る舞った福禄寿。一本立ちのツンツン髪がうなだれて二本になる。