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第六話

『ダンッ!』強く机を叩く音が最前列から発信された。

「ピンクメガネ先生、長いから略してピンセン、ちょっと待ってくれかるかなぁ。馬は別に数える価値もないからいいけど、おふくたちは汗水流して登校してきたんだよぉ。正確には馬がだけどねぇ。こんな所までやってきたのは、出席の返事をして、学校にやってきたという実感を得たいからなんだけどぉ。この口に溜まった『出席してます返事』による達成感の喪失ストレスをどうしてくれるのかなぁ?これって、ここにいる神様全員の総意なんだけどぉ。」

クラスのほぼ全員が頬杖をついて、横を向きながら面倒臭そうに、手を下に振って同意のジェスチャーのマスゲーム。

福禄寿の言葉を聞いて、女教師は表情を険しくして、メガネに隠れた眼光とシンクロさせて、歪んだ口元を開いた。
「座っていらっしゃる神様はあくまで生徒です。学級運営権限は教師にあります。出欠の取り方をどうするかは教師が決めるので、神様は外野席でおとなしくしていることをお勧めします。」

『ピーン!』
 女教師の挑発的な発言はクラス全体に音が出るほどの強烈な緊張感を与えた。中でも、大悟は眉間にフォッサマグナのような皺を寄せた険しい表情を隠そうともしない。

「あららぁ。このピンセン、おふくに意見してるよぉ。これまで神様に自己主張した先生がどうなったのか、知らないのかなぁ。人生に永久赤信号を点灯させて、転倒してるんだけどぉ。それでも人間界は回ってるって、転倒説に異を唱えるのは勝手だけどねぇ。」

「ずっと前から神様と人間の関係こうだったけど、支配へのレジスタンスはどこにも置き忘れてないですからね。今日という今日は、教師として、反発してもいい頃かなと思ってますよ。教師の間では、福禄寿さん、大黒天さん、寿老人さんたちのことを『三人寒女』と呼んで、職員室に神棚作って毎日拝んでますから。」

「ははん。そんなに小さく抵抗してたんだぁ。これじゃ、軽~いお仕置きでは済まされないねぇ。人間には命は一つしかなくて大事にしなきゃいけないのに、生きていく校則をしっかり勉強してないから、こんなことになるんだよねぇ。」
福禄寿は馬椅子女子から立ち上がった。すると、クラス全員が机を下げて教壇との間にスペースを作った。机の移動は馬椅子女子が当然のように行った。

「いたい~!ゴロゴロ~。」
 福禄寿はいきなり、教室の板張りの上に倒れて、顔を押さえて左右に転がっている。

 女教師のきれいな足が一回転して、着地している。

「毎日、素早く足を開く訓練をしているからね。ハイキックでクリーンヒットするなんて、目を瞑ってでも楽勝なんだよね。ちょっとは効いたかな。でも積年の恨みとの釣り合いは全然とれていなくて、ゼロ金利時代の利息にしかならないよ。って、それじゃあ、一円も効果がなかったことになるのかな。」

「よけようとしたんだけど、そのヒマすらなかったねぇ。よくも親にも叩かれたことのない顔に傷を入れてくれたねぇ。まあ、親もいないし、傷もついちゃいないけどねぇ。でも、神に楯突く、それも言葉だけじゃなくて、足蹴にするなんて、すごいねぇ。人間にしておくのはもったいぐらいだよぉ。うぐッ。」

 ゆっくり立ち上がった福禄寿に、女教師は連続パンチを浴びせ掛けた。顔からは赤く血の混じった唾液が迸って、床を汚した。さらに女教師は小柄な福禄寿を羽交い締めにした。

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