奴隷に願うは、強欲の渦
トウゲンまでは馬車で行くことになっている。もちろんリーブナブルな民間用の馬車だ。貸切にするはずないだろう。
ここら辺の気候はステップ気候だ。背丈の短い草が生えているだけで本当に何も無い草原だ。
スライムなどのモンスターがいるのだが、ビックリするほど馬車の移動速度が速く、モンスターの類は馬や馬車が蹴散らしてくれる。
そんな中一緒に乗車していた親子が話しているのを盗み聞きしていたのだが、その内容はとんでもない内容だった。
「ママ、この先の国には何があるの?」
「<無限地獄>よ」
俺はその間剣や盾、弓、鎧などの武具レシピが書いてある象形文字の様な字が書いてある本を翻訳していたのだが、その手を止めてしまうほど、その親の口調は
<半端じゃない>
雰囲気を醸し出していた。
だからと言ってその話に干渉する理由でもなかった。
シャルルは一緒に乗車していた小さなドラゴンと戯れている。
「そんなことは覚悟の上」というのがいいのだろうか。俺の心の中はそんな気分であった。
半日間翻訳を続けていると、馬車が途中の商館で止まってしまった。
「俺達が行けるのはここまでだ。<トウゲン>までは自力で行ってくれ」
「ここより先は徒歩ですか?」
「すまないがそういう事だ。辛いだろうが、頑張ってくれ」
俺は戯れているシャルルを連れて商館に向かった。
ここより先は戦争区域内らしく、馬車がその中を通るとなるとまさに自殺行為。
一刻も早く進んでいきたいところだが、もう夕方なので商館に泊まることにした。
商館はホテルのような役割もしている。商館の名前通りにいろんな国の特産品が売っていたりして市場は盛り上がりを見せていたのだが。
中でも一番の盛り上がりを見せていたのが。
<奴隷>であった。
この世界では奴隷など日常茶飯事のようだ。
色々な種族を学ぶことがてきた。
極端に白い肌に華奢な体つきなのが<エルフ>。
小さな体に凄まじい力を持つと言われる人間のような体型と肌色で小さな体つきの<ドワーフ>。
人間と変わりない感じなのだが頭に角が生えていたり、角はなくとも鱗が付いていたりするのが<竜族>。
プニプニとした体に人それぞれの肌色があってサッカーボールくらいの大きさで宙を舞うのが<星族>。
そして<人間>。
色々な種族が奴隷とされ売り飛ばされていた。
泣きわめくものもいれば、絶望的な顔をしている者もいた。
美しい顔やスタイルで高い値がつく奴隷もあれば、肉まん1個で変えるような値段で買われる奴隷もいた。
人それぞれ、価格それぞれであった。
俺は学んだ知識を生かして武器、防具の店を即席でやってみると、なかなか売れた。
特に飛び道具はこの世界には弓しか無いらしく、火縄銃はかなり高い値がついて売れた。
稼いだのは480万トリンだ。一トリン10円の計算となるので、4800万儲けた。
そんなバカな、という気分であるが、火縄銃をかなりぼったくって20万トリンで売っていた結果だ。
そこから資材量の140万トリンを抜いても340万トリンだ。王手の会社の部長クラスでも年収でここまでは稼げないだろう。
この金でまた資材を買い、残りの300万トリンでは何を買うかは決まっている。
<奴隷>だ──
異世界生活五日目。
「さぁ始まりました奴隷売買!」
奴隷売買はオークションである。
俺は1人しか奴隷を買わないと決めているので、大丈夫だ。
「さぁ、まず一人目は──」
俺が狙っているのは<ドワーフ>だ。
エルフはそんなに力が無さそうだ。顔立ちがいいだけだ。
他にもいるだけで草木の成長を促進したりできるらしい。
ドワーフはかなりの力持ち、そして素早さもいいらしい。それに体力も高く、防御力も高いといわれている。
某有名RPGでいえば、バトルマスターとパラディンを合体させたようなもので敵なしだ。
高度な文明を築いていたと言われているが、その力に溺れて失脚したのもドワーフだ。
「続いてはこの方! 美しい茶髪だが握力80キロ! こんなに可愛い顔をしておいて100m8秒の実績を持つドワーフ! さぁ、最初は3万から!」
こいつだ。
「5万!」
「十万!」
「三十万!」
「百万!」
ざわめきが聞こえた。
その声の主は、以下にも金の持ちすぎで肥えた感じの貴族であった。
「他には!」
行くか。
「150万!」
さらにざわめきが聞こえた。
その貴族は舌打ちを打つ。
勝ったな。
「では! 150万でそこのお兄ちゃんに買い取られました!」
これでもう安心だ。
これでやめよう、と席を立とうとしたその時。
「続いては、弓の名手と呼ばれる、このエルフ!」
まだ、終わりじゃなかったか。
買おう。
何としてでも。
どうしてかと言うと。
彼女、俺のパーティ編成にぴったりだからだ。
しかし、スタイルがそれほど良くなく、高い値段はついていなかったので、八十万で落とせた。
あのドワーフは世にいう<ロリ巨乳>だ。
「さぁ、買収した奴隷を取りに来てください!」
俺は一番乗りで取りに行く。順番も一番じゃないと気に食わない。
MCの人に鍵を渡され、その鍵に書いてあるナンバーのところに買った奴隷がいるらしい。
一人目のエルフは24番。
その牢屋のようなところに入れられ、かなり死んだような目をしているエルフを見ると、何だか心が痛くなったのだ。
こんなに人に心を動かされるような人間ではなかったのに。
「よろしく。俺は針野結羅」
「私は……クリム……です」
「よろしくね」
手を差し伸べてみると、クリムは俺の手を握るのだが。
「私のような者があなたに触っても宜しいのでしょうか……」
「いいよ。勝手にしろ」
「……ありがとうございます」
なんだろう、この謙虚を超越したネガティブな感じ。
「弓が使えるんだよね?」
「ま、まぁ……」
「じゃあ」
俺はそう言って、火縄銃を3本と弓と矢を渡した。
矢は筒の中に入っているタイプのやつだ。
「……ありがとうございます」
そう言ってクリムはボロボロと涙を流してしまった──
次はドワーフのところだ。
鍵を開け、牢屋の中に入って挨拶をする。
「よろしく。俺は針野結羅。よろしく」
「……ミカエ。よろしく」
ミカエに手を差し伸べると、この子はその時点で泣いてしまった。
「ちょ……」
「私は……この牢屋でひどい扱いを受けている奴隷さんたちをたくさん見たのに……あなたは違う」
「何が?」
「私たちに色目を向けているんじゃなくて、<自分を変えさせてくれる存在>として接している。あなたも、きっと何かを直したいんでしょ。性格とか」
あながち、間違いではない。
俺はこの子達と触れ合い、コミュニケーションを取ることで、少しでもいい、自分でも分かっているこの腐った性格を直したかったのだ。
「ついて行くよ。<服従>の関係をあなたは望んでいないらしい」
「……占い師みたいだな」
「かじった程度だよ」
そうして俺の手を取り、歩き出したミカエ。
この2人は、これからの彼の運命を大きく変えていくことなど当然知らず、歩き出していく──
奴隷売買が行っている部屋から出ると、ごっついおっさん達に囲まれていた。
手には剣やらナイフやらを持っている。
その後ろから出てきたのは──
あの肥えた貴族であった。
「おい、そこのお兄ちゃん。その奴隷たち、80万で売ってくれねぇか?」