強欲が結ぶは、仲間との絆
これって。
やばいパターンじゃないの?
「さぁ、渡せ」
「ごめんなさい。俺のものです」
「そうか。やれ」
ごつい人たちは俺たちを、いや、俺を目掛けて突っ込んできた。
俺は壁のコンクリートを形状変化させ、槍を形成した。
その槍にリシンの液体を垂らすことで、殺人槍の完成だ。
「だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺が1人のごつい人をつつくと、その人は悶えていく。
「結羅くん、武器を!」
「あぁ、悪い」
俺がコンクリートを形状変化させて剣を作ってミカエに投げ渡すと、ミカエはしっかりと受け取り、
「ナイス」
とお礼を言っておっさん達の元へ駆けて行った。
ドワーフの戦闘能力が高いのだろうか、元々ミカエが強いのだろうか分からないが、ミカエは狭い通路を上手く使って敵を倒していく。
壁を蹴って近寄り、喉を刺し、後ろにいる敵を剣を投げることで一掃し、ごついおっさん達が持っていた剣を拾って今度はオッサンに体当りして転ばせる。
「この感じ。久しぶりだねぇ!!」
ミカエは人が変わったような感じで敵を倒していく。
俺はリシンの着いた槍で敵をツンツンしている。
「ひぃ、退散だぁぁ!!」
肥えた貴族が蜘蛛の子を散らすように逃げると、丁度シャルルから火縄銃の使い方を言語なしで教えてもらったクリムが火縄銃を構えて、
「あいつを狙い撃ちすればいいんですね」
と言って狙いを定めた。
俺はいろんな敵をツンツンし終えて、貴族の元にこの槍を投げそうと思っていたが、
「結羅さん、しゃがんでください!」
そうクリムに声をかけられ、しゃがむと。
火薬の爆音とともに俺の髪の毛がなびき、そして真後ろで走っていた貴族の肥えた腹に直撃したのだった。
「こ、こんな感じですかね……」
「あっぶねぇ……」
腰が抜けてしまうほどのスレスレ区間であった。
「そうですか。お怪我は?」
「いえ。皆無傷です」
管理人に状況を説明した。管理人は少し怪訝な顔を浮かべた。
「どうしたんですか?」
「いや。あの貴族はトウゲンの国の貴族なのだが……」
管理人は腕を組んで唸り声をあげた。
「あの貴族、王族の人間なのになぜ殺されないんだ?今は戦争で王の周りの人間たちは殺されているというのに」
「そうか。君達はトウゲンに」
「はい。依頼がありまして。もしかしたらあの国がひっくり返るかも知れません」
管理人は少し待っていろと言って俺たちを通路に待たせた。しばらくすると、管理人は1枚の世界地図を持ってきた。
「これを君にやろう」
「いえ、地図は持っていますので……」
なんだ?なめてんのか?
管理人はにこやかに笑い、
「この地図の裏を見てみなされ」
言われた通りに裏にしてみると、そこにはもう1枚の同じ世界地図が。
しかし、色々な色で書かれたルートのようなものが書いてある。
「これは各都市からのルートとかかる時間が書いてある。君たちの言語ではないとは思うが、頑張ってこれで旅を続けてくれ」
「ありがとうございます」
3人で頭を下げてお礼を言った。
「その代わりと言ってはなんなのだが、これを渡してほしい」
それは巾着で包まれた、まるでお袋が作ったような弁当箱であった。
「小包爆弾ですか」
「違います」
「なんて無礼なこと言うんだよ」
クリムが人間不信的な事を口走る。管理人は笑って違うと言ってくれたが、俺はしっかりと教育を入れる。
「これをトウゲンの国にいる<アベル>って奴に渡してくれ。うちのせがれだ」
「……分かりました」
異世界生活七日目。
やっと一週間経ったのか、という感じだ。色々あり過ぎて1ヶ月くらいここにいるような感じがする。
「んじゃ、行くか」
「そうだね……荷物持ちは私だけど」
ミカエが口を尖らせて俺の腹をつつく。
「いいじゃないですか、力持ちなんだし。昨日腕相撲で一番強い人が荷物持ちって結羅さん言ってましたよ」
クリムがフォローをしてくれる。ネガティブなのだが、中々のフォロワーだ。フォロムさんだ。
「そうだよ。あんなに手加減なしの本気勝負な顔してたからキタコレだったよねー」
「ねー」
俺とクリムが顔を合わせて「ねー」の猛襲を食らわす。
「だって……腕相撲負けたことないし」
ミカエが腕を組んで自慢げに言った。
「マジか」
歩いて。
歩いて。
何の景色もない草原を歩いていく。
3人は時に語り合い、時に笑い合いながら進んでいる。
皆の過去の話を聞いた。
ミカエはドワーフの奴隷娼婦の子として生まれた。なので奴隷になること以外に選択肢はなく、それに生まれてすぐ保護施設に預けられたので両親の記憶が全くないという。
クリムは両親もいて、友達も先生もたくさんいた小さな村に住んでいたのだが、いつしか戦争の渦に巻き込まれ、父親は兵隊の一員として強制出征させられ、母は奴隷とされ売り飛ばされ、娘であるクリムを売り飛ばされた、と言っていた。
なんだか皆背負っているものが違いすぎた。
俺の前世が本当にちっぽけに見えるくらい。
そんな俺達にも段々と疲れの顔が見え始めた。
商館で買った懐中時計を見てみると、明け方に出て今はお昼前だ。
誰か休憩って言ってくれないかな。
そんな我慢比べをしていると思っていたら、
「……ここらで一旦休憩としませんか」
「「ガチ賛成」」
クリムが中々言い出せないことをサラリと言ってのけた。
当然俺とミカエも即賛成。近くの森の中に入って自然の中でご飯食べようというミカエの発想で近くの森の中に入っていった。
そこが<戦争区域内>だとも知らずに──
俺達は木漏れ日の中、ポカポカした容器の中パンのようなものと果物、そして管理人から頂いた冷凍の魚を刺身にして食べた。
衛生的な問題は俺が魚に水をかけて状態変化させてやれば大丈夫だ。
「んじゃ、いただきます」
「なにその<いただきます>って。どこの文化?」
ミカエが不思議そうに尋ねてきた。
「うーん……俺の前世でも食べる時の約束のご挨拶、みたいな」
「面白しですね。私も、いただきます」
クリムも真似していた。
パンは不思議な構造になっており、缶詰めの中に米粒程度のミニチュアなパンがゴロゴロはいっているのだが、水をかけると1分ほどで膨らんでいつものサイズのパンになるのだ。
「んじゃ……って刺身うまっ」
ミカエがそんな言葉を漏らす。味や食感的にはアジなのだが、アジのような銀色の体ではなく、クジラのような黒い肌だ。
するとミカエが、
「……誰かいる」
と言い出した。
俺もその気配に気づいた。何かが大量にいることを。
俺達は武器を構え、辺りを見渡してみると──
囲まれていた。
軍に。
「何用だ」
軍の偉い人のような、バッジを旨にたくさんつけた人が森の奥からこちらに向かってきて俺達に問いかける。
やばいぞ?
かなりやばいぞ?
このままだと全方位から蜂の巣にされるか、どこかの国に連れていかれるか、ここでザックシだ。
嫌だ。
何とかして逃げないと。
俺が周りを見渡し、脱出の糸口を探していると、クリムの一言で状況は大きく変化した。
それは慌てていた故なのか、それとも元から計算していたのかは分からないが。
「一旦、戦争やめてどちらの軍も集まって宴会やりましょうよ、ね?」
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