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序 Easiri

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 1857年、安政(あんせい)四年の6月27日。
 現オトイネップを訪れた松浦タケシロウは、アエトモという名の長老(エカシ)からこのような話を聞いた。

 北方ではわたしたち人間(アイヌ)のことをカイナと呼ぶ。「カイ」とは、
「この国に生まれたもの」という意味であり、「ナ」とは尊敬を表す旦名なりしが、いつしか日本人の発音に慣れて「アイヌ」という風に変容していったのだ、と。



 また、『天塩(てしお)日誌』の外典において、エカシはこうも話したと伝わる。

 わたしたちは自然に生きて、自然に生かされている。
 全ての自然にはカムイがおられ、彼らとともにわたしたちは生きている。
 カムイが輪廻し滅びない限り、わたしたちアイヌが滅びることはない。
 この大地(モシリ)自然(カムイ)、そしてわたしたち人間(アイヌ)を、纏めて「カイ」 と呼ぶ。
 アイヌもカムイも、この約束の国なくして存在することはできない。
 それを忘れた時、この大地に災厄が生まれるだろう。

 ......と。


 タケシロウは日本人としての自分と、アイヌ部族との約束として
北加伊道(ほっかいどう)
 この地をそう名づけたのだ、という話さ。
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