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014

「こちらで宜しかったでしょうか?」
「うん、ありがとう」
「ありがとうございます」

 キャシーさんが持って来てくれた袋を受け取り、おもむろに袋に手を突っ込む。
 こうしてこの袋の中の魔力の流れを掴むのだ。
 ぐるぐると渦巻く何かに触れて、それに沿うように自分の中で魔力を動かす。

「あ、そうだ。袋って大きさは決まってるの?」
「そうだね。重さは感じないけれど入れたら入れただけ袋が大きくなるから、持ち運べる大きさまでしかないかな」
「なるほど」

 ジルから簡単な説明を受けながら、袋を細かく観察する。
 見た目は普通の袋だ。
 麻袋、ってやつかな?

「これってどうやって定着させてんだろ……錬成?」
「さあ? 袋は普通に売ってるやつだよ。だけどもう新しくは作れないかもね。空間、転移は今じゃあ古代魔術だから」
「え、そうなの!?」
「うん、転移に関しては制約もあるしどちらも使う魔力がハンパないみたい」
「へええ」

 そんなにか。
 ジルが言うならその使う魔力の多さは、常人じゃあ使いこなせない程なんだろうな、と思う。
 これも今度試してみよう。
 スキルに空間魔術があるんだから多分コレも作れるはず。
 ……裁縫苦手だけど……。

 それにまだジルの書斎の本を全部読んだわけじゃないから、手掛かりもあるかもしれない。
 どうしようかな。
 空間魔術に取り掛かるか、レベル上げをするか。
 そういえば魔術って初級から上級まであったっけ。
 空間魔術でひと括りにされてるのか、空間魔術でも簡単なものしか使えないのか……ちょっとわからない。
 魔力の消費が激しいのなら、まずはレベル上げた方が失敗も少ないのかもしれない。
 それにいつまでもジルの家にお世話になるわけにいかないし、お金稼がないとだよね。
 しばらくはレベル上げ兼お金稼ぎにしようかな、うん。

「何ぶつぶつ言ってるの」
「え? あ、うん。レベル上げしたいと思って」
「レベル上げ?」
「うん。……あ、ギルド行こう!」

 そうだよ、ギルドの依頼受ければいいんじゃん。
 すっかり忘れてたよ。
 お金も稼げて、レベルも上げられる。
 そうと決まれば行動あるのみ!

「今から?」
「うん! ちょっと行ってくるね!」
「え、ちょ」

 椅子から立ち上がると何か言いたそうなジルとキャシーを尻目に、屋敷から揚々と外に向かった。
 辿りついたギルドは……やっぱりむさ苦しい。
 紛れるように、女性もいるけど……男の方が多くて……汗臭い。

 ロビーに溢れるごついおにーさん達は、壁に貼られた紙を我先にと奪い合っているようだ。
 あっちで俺が先だ!とか、俺が狙ってたんだ!とかこっちから聞こえる。
 おねーさん達の方がスマートに依頼書をゲットしていて、ちょっと笑えた。
 あ、争ってるおにーさん達の隙間からするーっと手が伸びて、依頼書取られてる。
 わろす。

 そんな人達をちらりと見てから、あたしもFランクの依頼が貼られた一角へと向かう。
 こちらはごついおにーさん達というより若々しい、まだ発展途上の男の子すら居た。
 この子もいずれ、あんなむさい男になるのかもしれないと思うとなんか勿体無い。
 いや、あたしは別に可愛いのが好きなわけでもないんだけどね。
 男の好みとしてはどちらかといえば筋肉がしっかりある人が好きだし。

 っと、あたしの好みは置いといて、依頼だよ、依頼。
 Fランクといえば冒険者として最低ランク。
 変な話、お使いレベルのものもある。
 身の危険が一番低い。
 その分達成したとして貰えるお金も少ない。
 小遣い稼ぎ程度だ。
 あたしとしても自分の力量を測り切れていないので、分不相応なものには手を出したくない。
 命あってのモノダネだからね。

 だけど、自分がどれだけやれるのかを知ろうと思ったら……街の近くは良くない気もする。
 変に目を付けられたら困るしね。
 自意識過剰かもしれないけど、一応ね。

 Fランクへの依頼は、草を採ってくるとか、簡単な討伐依頼しかない。
 といっても自分のランクプラス1つ上まで受けられるから、Eランクの依頼も受けられる。
 草を採りつつ、周囲の討伐依頼を受けるのが、効率的にはいいんじゃなかろうか。
 魔法は使えないが狼はこの前倒しているから、気を抜かなければ狼と同じくらいの強さだというゴブリンも倒せるだろう。
 ゴブリンとか異世界単語だよ、凄くない?
 ニヤニヤしちゃう。

 横でなんだこいつって顔されてるけどスルーしとこう。
 Fランクの依頼を一通り見てからEランクの依頼を見ようと場所を移動する。
 人混みを声をかけながら掻き分けて、一番前で依頼書を見る。
 Fランクの討伐依頼とあまり差はないが、依頼書1枚での討伐数が多い。
 ゴブリンの討伐依頼で例えるならば、Fランクだと群れからはぐれたんだろうな、って数の討伐依頼だが、Eランクだと群れそのものを討伐するみたいなものだ。
 依頼書にもゴブリンリーダー討伐とあるしね。
 ゴブリンの群れが何匹かはわからないが、リーダーとつくなら強さも普通のゴブリンより強いだろうし、それなりに数もいるんだろうと推測する。

「わっ!?」

 そんなことをつらつらと考えてたら、何かにぶつかって尻餅をついた。
 というか、動いてなかったんだからぶつかられた、が正しいのだけど。
 床に打ち付けたお尻と掌がじん、と痛む。
 何だ?と思って顔を上げたら見たことのある顔があたしを見下ろしてた。
 睨み付けるように、そして馬鹿にするような目。
 そしてパンチパーマ。

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