013
ジルの屋敷にお邪魔して、早いもので数日が経過していた。
ジルは何処かに出かけるでもなく一日中家の中にいる。
というかあたしの後を追い掛けてくる。
あたしを観察してるらしい。
キャシーさん曰く、あたしを気に入ったのだろうと。
今まで他人に対して興味を持たなかったジルが、まるでおもちゃを見つけたみたいにあたしに付いて回る姿は微笑ましい、となんか生暖かい目を向けられた。
遺憾である。
キール君曰く、ジルが楽しそうで嬉しいと。
もっとジル様を楽しませてあげて欲しいとお願いされた。
誠に遺憾である。
不本意ながら楽しませているつもりはない。
練習しているだけだ。
そう、練習、である。
全身発光の次は火の玉を打ち上げた。
それは高く高く昇り、花火のように弾けた。
めっちゃ綺麗な花火でした。
ただ、それを見た街の人達が屋敷の周りに野次馬よろしく押し掛けてきてしまった。
その時練習していたのは、初歩中の初歩である『
決して花火を最初から狙ったわけではない。
その次は水柱を創った。
びゃーっと噴き上がり、降ってきた水で全身びしょ濡れになった。
ついでにその水柱が足下から出来たせいで、ジルが空高く飛んだ。
降りてきた時は風を纏って優雅に着地していたが。
これも初歩中の初歩、『
その次は風を纏って空を飛ぼうとした。
火も水も初歩中の初歩が出来なかったので、腹いせ……じゃないけど、いっそのこと少し難しい方が出来るんじゃないかと、ジルと話し合ったのだ。
これは若干成功した。
あたしと一緒に屋根も飛んだのは計算違いだったけど……。
吹っ飛んだ屋根が、街の外に落ちたのは僥倖であったと言わざるを得ないが。
ジルの屋敷が街の端の方で良かった!
しかし、おかしい。
あたしは真面目に練習してるだけなのにね?
どれもジルに一回見せてもらってから、同じようにしてるはずなのに。
何故こんなにも違うんだろう。
でもどの魔法を使った時もジルは笑ってた。
爆笑である。
大爆笑、だ。
何故だ。
そして今も笑っている。
庭で練習しているだけなのに。
いや、庭で練習していた。
今は土を魔力で練り上げて、小さな人形を創っていた……はずだった。
その人形が巨大な土人形ゴーレムになってしまっただけだ。
土人形の頭の上から、ぼんやりと新しくなった屋敷の屋根を見下ろす。
横で息も絶え絶えな様子で震えてるジルは無視だ。
この人きっと笑い上戸なんだ。
そう思わないとやってらんない!
あたしがへたくそだからって笑いすぎじゃない!?
なんかムカついたからジルを土人形から蹴り落とす。
だけど笑いながらふわりと浮きあたしの横にまた来る。
「なんで笑ってんのよ!」
「だって楽しいじゃないか」
「ジルの楽しいがわかんないよ!」
「僕はね、小さい頃に人より魔力が多いって言われてさ。なんていうか……研究対象だったんだけど。僕でもここまでの事やったことはないよ」
「……研究対象……」
「ああ、そんな変なことはなかったよ。ただ毎日魔法を使って実験してただけ」
そうは言っても研究とか実験とかあんまいい物じゃなかったんじゃないか、と疑うよね。
かと言って詳しく聞くのも良くないだろうし……。
「……あれ、じゃああたしこれ……」
こんだけバンバンおかしな状況起こしてるあたしヤバくない?
ジルでもここまででなかったのならば、あたしが研究対象になる可能性もあるんじゃ……。
「ああ、僕がやったように見えるだろうし大丈夫だよ」
「は?」
「変人のジルフォードが新しい魔術を研究してる、って周りには見えるからね。君がここまでやるなんて普通想像つかないよ」
「……ジルに迷惑かけたいわけじゃないのに……」
あたしのせいでジルに迷惑がかかってる事実に落ち込む。
制御が甘くなって、ぐらりと土人形が傾ぎバランスを崩す。
ジルがあたしの腰を抱いて宙に浮く。
浮いたあたし達の足下で、土人形が庭に崩れてゆき、小さな山になる。
「……ごめんね、ジル」
「なんで? 僕は楽しいよ? きっとあの時の研究者達は、こんな気持ちだったんだろうな」
ジルの声に悲愴さはなかった。
それがなんか余計に申し訳ない気持ちになるけど、あたしが出来ることはないんだろうな、とも思う。
こんな気持ちも逆にジルには失礼になるかもしれない。
……うん、前向きにいこう。
「……もしかしてあたしのレベルが低いのかな……」
地面に下ろしてもらって土人形の成れの果てを触る。
ただの土になってた。
「レベル? これだけ出来るのに?」
「制御が出来ないのってレベル不足な気がするの。……暫く攻撃魔法はやめとこ」
不思議そうなジルにそう言って一人で頷き、立ち上がると屋敷の中に向かう。
洗面所で手と顔を洗ってリビングに向かえば、キャシーが飲み物を用意して待っててくれた。
ジルは既に椅子に座って喉を潤してる。
「うーん……そうだ、あの袋見せてよ」
「うん?」
「狼入れてた袋!」
「じゃあ持ってきて」
「かしこまりました」
キャシーがパタパタと何処かへ向かう間に、あたしも飲み物で喉を潤す。
左手で頬杖をつき、指をパチリと鳴らしてステータスを確認する。
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NAME:ユウナ
AGE:19
RACE:人間
FITMENT:頭 《なし》
体 《スウェット(上)》
脚 《スウェット(下)》
アクセサリー 《創造主の指輪》
《なし》
《なし》
SKILL:《自動識字》《身体強化》《観察眼》《気配察知》《空間魔術》
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昨夜に見た時と何も変わってないってことは、やっぱりまだ魔法は使えないんだろう。
ただ、空間魔術はまだ試していないから、もしあたしが使えるとしたら……今はこれだけなのかもしれない。
1人で溜め息を零していると、キャシーが戻ってくる音がして、指を鳴らしてステータス画面を閉じた。