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雨が降る日はいつも少し嬉しい。あの人に会えるからだ。
あの人と初めて会ったのも、今日みたいな雨の日だった。
放課後、家への近道で通っている竹林へ入り一人歩いていた。
もうすぐ家につく距離に差し掛かろうとした、そのとき、
ふと気になるものがあった、竹の枝に一本の傘が下がっていた。
黒くて持ち手は彼岸花のような赤。こんな雨の日に傘を置いて
いく人なんかいるわけもない、きっと捨ててあるんだろうと思ったが、
あまりにも綺麗な傘だったので、僕は家に持ち帰った。帰って
からも雨は止まず、見ると時計は12時を過ぎていた。布団に入り目をつぶる。
そして今日のことを思い出す。「あの傘綺麗だったな~」と
一人感想を言う。あの竹林に僕以外の人が入っているのか
と不思議に思う。疑問は次々と湧きあがってくるが、同じ
ように眠気も襲ってきてその日は寝てしまった。
夢を見た。僕はあの竹林に立っていた。右手には今日見つ
けたあの傘を持っている。辺りを見回すと竹林の中に誰か
いた。こちらを見ている。すると、そいつは竹林のなから
少しずつ歩み寄ってきて、姿を見せた。
女性だった。髪は腰よりも長く、目は彼岸花のように赤い。
僕よりも大きいその女性は、「傘を見つけてくれたね、あり
がとう。」と言った。僕は動けないまま頷いた。すると、
その女性は「この竹林に私は住んでいてね、君を幾度か見か
けていたんだ。」僕は動かない口で無理やり喋った。
「体がっ・・動かないんっ・・ですけど。」
すると女性は「そりゃあそうさ。今君の夢は私が支配している。
だから動けない。こうしないと今日中には会えなかったのでな。」と
言い、「でも口ぐらいは動かしてもいいぞ」と言った。
はっと口が動くようになる「あの竹林は家までの近道毎日使って
いますが、家なんて一軒もありませんよ。」と言った。女性は
「普通は見えないさ。でも君は今私の傘を持ってるだろう。だから
見えるはずだ。」と女性は竹林を指さす。
すると、普段はない細い道がそこにあり、奥に一軒家が立っていた。
そして女性は「明日この場所に来てもらいたい。その傘を持って。」
その言葉を最後に目が覚めた。
夢にしてはリアルだった。
窓からは既に日が差している。
学校に行く支度をしていると傘が目に付いた。
「いったいこの傘にどんな秘密が・・・」
家を出て竹林を歩いていると、一匹の蛇が道の真ん中にとぐろを巻いて
いた。白くとても綺麗だ。こちらに気づくチロチロと舌を出しながら、
近づいてくる。
真っ赤な目で僕の顔をじっと見つめてくる。
少しの間見つめ合って僕は学校に向かった。
不思議とその蛇のことが気になって帰り道にいてほしいと、密かに期待してしまう。
つづく