いざ決戦の刻
俺の正体が判明してから数日が経過した。放課後、生徒会室に入ると、絵菜と知らない女子生徒が放課後ティータイム中だった。二人の会話が止まり、同時にこちらを向く。絵菜が言う。
「あ、光尚」
俺は言った。
「よ。絵菜。そちらさんは?」
絵菜が言う。
「えーと、二年生の宮路奈緒さん。進路関係の相談で」
進路ねえ。二年生から決めるのか。俺は言った。
「生徒会の北宮です。よろしく。宮路さん」
宮路さんが言う。
「は、はい。よろしくお願いします」
「むー・・・・・」
絵菜が不服そうにこちらを見ている。なんだってんだ。宮路さんが帰ってからずっとこんな感じだ。ほんとなんなんだ。俺は言った。
「なんだ?」
絵菜が言う。
「色目使ってた」
俺は言った。
「誰が?誰に?」
絵菜が言う。
「光尚が、宮路さんに」
使ってないわ。俺は言った。
「使ってないぞ」
絵菜が言う。
「嘘。絶対嘘」
俺は言った。
「お前は俺の彼女か」
とたん、絵菜が顔を真っ赤にして言う。
「か、かかか彼女なんて、私は別にそんなつもりじゃ・・・」
「さて、ファベルの件ですが」
誤魔化しやがったな。まあいいけど。俺は言った。
「ファベルがどうかしたか?」
絵菜が言う。
「動きがありました。一昨日、東京都新宿区西新宿にある損保ジャパン日本興亜本社ビル屋上に現れ、休憩中だった同社の社員を1人死亡させています。死亡したのは鎌田泰光。31歳。元日本高次元生命体対策協議会事務局長、鎌田謙三の一人息子です」
鎌田謙三。日本異能士協会理事長。北宮家を忌み嫌う一族当主である。その一族当主の一粒種が高次元生命体に殺された。異常事態である。今後も国内の異能士一族が殺される可能性が高い。だが、
「だからなんなんだ・・・」
絵菜が言う。
「対策を取らなくてはなりません。私たちは日本で唯一の異能士を集めた学園の一員です」
俺は言った。
「じゃあファベルを倒すか」
絵菜が言う。
「は⁉ファベルを倒す⁉無茶です‼前のときは勝てなかったじゃないですか」
俺は言った。
「1人なら勝てないだろうな。だが二人ならどうだ。封印能力を持つ相棒がいればいい」
絵菜が言う。
「それって・・・」
俺は言った。
「ああ。叔父さんに頼めばいい」
絵菜が言う。
「あ、彩雲さん・・・て、バカァァァァ‼」
・・・パソコン投げつけられました。冗談だったんだがな。
永海市郊外、超次元への門の真下。広大な草原の入口付近には、高度情報処理衛星通信車と、移動観測基地車が並んで止まっている。今宵、ファベルがここに現れる。俺と絵菜は戦闘用のスーツを着て草原の中央に立っていた。時刻は午後8時。普段なら風呂に入って寛いでいる時間である。青黒く妖しく光彩を放つ夜空は不気味である。俺は言った。
「絵菜。大丈夫か?」
絵菜が言う。
「大丈夫です。光尚こそ大丈夫ですか?」
俺は力なく笑い言った。
「ははは。大丈夫だよ」
決戦の刻は突如として訪れた。
上空30mのところに燕尾服にシルクハットを被った紳士が現れた。そいつはこちらに下降して、すぐに草原に立つ。そいつはぱっと見人間だ。だが本質は高次元生命体である。ファベルが言う。
「久しぶりだねソード・ファイター・・・いや、北宮光尚くん」
俺は言った。
「久しぶりだな。ファベル」
ファベルがクククと笑い言う。
「戦いに来たのかい?僕も舐められたもんだな。たとえソード・ファイターでも、僕に勝てる訳がない。実力ってもんを見せてやる」
と言うや否や、姿が消えた。俺は剣を素早く生成し、身構える。だがファベルは何処にも現れる気配がない。絵菜が言う。
「光尚。あそこ」
絵菜が指差した先にはニヤリと不敵な笑みを浮かべるファベルがいた。ファベルが言う。
「どうだ?僕には追いつけないだろう?」
俺は言った。
「そうだな。だが、追い詰めることはできる」
そして手に持っていた剣を投擲する。そして新たに剣を錬成し、また投擲する。ファベルが剣に気を取られている隙にファベルに近づいた。ファベルが言う。
「ほう。さすがだな。剣をすぐに錬成できるのか。だが、1人では僕には勝てまい」
俺は言った。
「ああ。1人ならな。だが"2人"ならどうだ?」
ファベルが言う。
「2人?ははっ。面白いことを言うね。あの女の子は封印能力しか持っていないはずだ。戦闘能力などな・・・」
ファベルが言い切らないうちに絵菜がファベルに蹴りを入れた。俺は言った。
「ああ。戦闘"能力"ならな。だが、戦闘"技能"ならどうだ?」
ファベルが言う。
「馬鹿な。僕の気配察知に引っかからないなんて。僕が敵の気配に気づかないわけがない」
俺は言った。
「絵菜を敵だと認識してなかったからだよ。戦闘能力を有さない奴など、自分の敵じゃないと。そう思ったお前のミスだ」
ファベルが言う。
「ハハハ。そうか。僕のミスか。情けないもんだな」
絵菜が言う。
「もう封印してもいいですか?」
俺は言った。
「いいだろう」
絵菜が封印結界をファベルの周囲に張る。結界はどんどん縮小していき、すぐに消えた。
ファベルを倒してから数日が経過した。あのときあいつはなぜ封印されるのに抵抗しなかったのか。恐らく、ずっと悪霊として生きていくのに嫌気が差したのかもしれない。